王太子殿下、わたくしとの婚約破棄はご英断でした〜今やこの国の経済はわたくしが回しています!〜
あおじ
1
王立学園卒業パーティ、天井からは巨大なシャンデリアが煌びやかな光の雨を降らせている。その光はドレスの絹糸や貴族たちの宝石を照らし出し、甘美なワインの香りと共にこの浮かれた夜を演出していた。
その円の中心で、レオンス王太子殿下は、一切の感情を排した声で宣告した。
「エミリエンヌ・フォン・ナヴァール! 貴様との婚約を破棄し、断罪に処す!」
私の今の名はエミリエンヌ。私は知っている。この世界が前世の記憶で知る乙女ゲームの世界であり、自分がヒロイン・コレット嬢をいじめる“悪役令嬢”であることを。──そしてこの場で地方の修道院送りを宣告される運命であることを。
この3年、私は破滅を避ける為だけに生きた。王太子との過度な交流を避け、ヒロインを擁護し、領地の貧困を前世の知識で解決してみせた。私の領地は豊かになり、民衆の私に対する信頼は厚い。私は破滅フラグをへし折ったはずだ!
「殿下! お待ちください!」
レオンス王太子の凍りついた瞳を、私はまっすぐに見つめ返す。
「わたくしは陛下を貶めたことはございません。コレット様とも良い関係を築きました。我が領地は豊かとなり隣国一の──」
「黙れ!」
王太子の声はそれまでの冷徹さから、激しい嫉妬と敵意を剥き出しにしたものへと変わった。
「貴様のその知識と人望はこの国の根幹たる王権を脅かす! 貴様のその才覚が、私には何よりも恐ろしいのだ!」
──努力は裏切らない? 破滅フラグは回避できる?
全身の血液が一気に冷やされた。私が恐れるべきは「悪逆非道な悪役令嬢」としての断罪ではない。恐れるべきは「王室を超える力を持つ者」としての断罪だったのだ。
善行だろうと国の為だろうと、その力がこの世界では何よりも忌み嫌われる「罪」だった。
目の前が真っ暗になった。王太子の声も群衆のざわめきも、遠くで鳴る楽団の音も全てが溶けて消えていった。
──そして、幕が下りた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます