火加減次第で7変化。カリッとトロッと目玉焼き

これさえあればなんとかなるメンバーを決めておくのじゃ

「またやってしまった……」


羽菜は冷蔵庫を開けて卵パック(6個入り)を確認する。まだ4つ残っている。そして羽菜の右手には新品の卵パック。


ついつい買ってしまう。あれ? まだ冷蔵庫にあったかな? と思うものの、無かったら困るし買っておくか、と手に取って帰ってきて冷蔵庫を開けると大抵、ある。いる。おられる。「やあ」って感じでくつろいでらっしゃる。


羽菜の中では「とりあえず納豆と玉子さえ食べていれば、栄養的にはなんとかなる」というゆるぎない謎の信頼がある。それもあって、買い物に行くとほぼ無意識で納豆3パックと玉子1パックがカゴに入ってしまう。むしろ、買い物はそこからスタートするまである。


「でも、考えてもみるのじゃ」

「こぎ! いつの間に来てたの」


にゅっと、こぎが肩の上から顔を出した。


「納豆は1セットで3パック、つまり3日分じゃろ? そして卵は6個入り。であれば、単純に同じペースで消費するとしたら、1日2個使わないと使いきれないのじゃ」

「それはそう」

「でも羽菜どのは卵を使わない日もあるのじゃろ?」

「うん」

「だったら、余るほかに道は無いのじゃ」

「正論はやめて?」


わかっている。わかっているけど、ついつい。でも、こぎのいう事ももっともだ。


「わかった。次からは4個入りパックを買うように頑張る」

「それでも1個余るのじゃ! というか、そもそも買わないという選択肢が行方不明なのじゃ!」


こぎはやれやれと首を振る。


「とはいえ、卵はどんな料理にも使えるゆえ、あると安心なのはわかるのじゃ」

「でしょ?」

「うむ。あとは……玉ねぎ、ひき肉、キノコあたりが『なんとかなる四天王』じゃろうか。余った食材と一緒にとりあえず入れておけばまとまる的な」

「あー、何にでも入れられそう」

「うむ。量の調整もしやすいのじゃ。肉類じゃとひき肉の代わりにソーセージでも良いかのう。扱いが楽じゃし」


なるほど。「これさえあれば」的な便利食材があるのは安心だ。レシピの通りに食材を揃えてみると、なんやかんやでほぼ余る。1人暮らしであれば、なおさらだ。


「好き嫌いもあるゆえ一概には言えんのじゃが、オールマイティなのは玉ねぎかの。日持ちもするし、常温保存でも大丈夫じゃ。あとはカレー粉でもあれば、カレー風味の何かができるのじゃ」

「カレー粉かあ。あのルーの奴?」

「そうじゃのう。ルーの奴でも良いが、粉の奴の方が余った食材を何とかするのには向いておるかの。量の調節も簡単でシンプルじゃ。赤い缶とか青い缶の奴とか置いておくと頼りになるのじゃ」

「へえ、今度買っておこうかなあ」

「うむうむ。自分の普段のごはんパターンや好みに合わせて、『これさえあれば』というのを決めておくと、あまった食材と組み合わせて名も無きごはんが作りやすくなるのじゃ。とはいえ、今日の所はまず、卵かのう」


こぎは、ホワイトボードにでかでかと1文字書く。そして首をかしげると、ちょっと付け加えた。


■卵:たくさん(いつもの!)


「その通りだけど、いたたまれない感が」

「まあまあ。こうなったら今日は卵祭りを開催するのじゃ!」

「卵祭り。卵の料理をいろいろ作るの?」

「ふむ……どうしようかのう。何種類か作れそうな量はあるのじゃが……」


こぎは顎に片手を添え、ブツブツと呟きながら考え始めた。作戦タイムだ。


「せっかく卵がたくさんゆえ、食べ比べをしてみるのじゃ!」


こぎは手をポンと打った。と、同時にきつね耳がピコンと飛び出す。


「決まったのじゃ! 羽菜どの、今日作るごはんは……」

「ごはんは?」

「目玉焼きなのじゃ!」

「え。他には?」


こぎはニコニコしながら首をぶんぶん振る。


「目玉焼きだけなのじゃ。作戦名『いつもの目玉焼き決定会議』じゃ!」


目玉焼きだけ。それはいいとして、卵の数は結構ある。何個も目玉焼きを作るという事だろうか。


「2人で1パック分の目玉焼きを食べるってこと?」

「まあ、そうなるのかの」

「ええー、まあいいけど」


仕方ない。卵をピンチに陥らせたのは自分なのだ。こういう日もあると割り切って、目玉焼きデーを乗り切ろう。


羽菜がため息をついていると、こぎが目を糸のように細めてにっこり笑った。


「フフ、羽菜どの、目玉焼きだけとは言うたが、1種類の目玉焼きだけとは限らんのじゃ」

「え」

「そして、食べるのは2人だけとは言うたが、作るのは2人だけではないのじゃ」

「ええ? 誰か呼ぶってこと?」

「うむ。もう連れてきておるぞ」

「どこどこ?」


羽菜はきょろきょろ見回したが、部屋の中には羽菜とこぎの2人しかいない。


すると、こぎは作務衣の腰のあたりにぶら下げてあった細い竹筒のような物を高々と頭の上に掲げると、ムニャムニャと何事か唱えてさっとぐように横にはらった。


「ここなのじゃ! でよ! 我が眷属けんぞくども!」

「えええ?」


竹筒からカッ、と小さな稲光が走ったかと思うと、目の前にぽんっ、と手のひらに乗るくらいの小さな生き物が2匹現れた。


「いず!」

「な……なづ……」


その小さな2匹の生き物は、羽菜に向かって元気よく鳴き声を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る