第16話
「俺は――お前の養子になる。ただ…」
「分かってるわよ。貴方はこれからも霖の名を名乗り続けて」
「あぁ」
「なら、決まりね!書類の手続きがあるから、また連絡するね!後々のことは追って連絡するよ!」
と言いながら梅は一頻り話して電話を切った。翠蓮は、少々困惑しながら霊刀を見た。すると二振りの刀の中の両親の霊力が籠もっている霊刀が嬉しそうにしていることを感じた。
―――母さんと父さんは虎柏のこと知ってたんだろうな。
そう考えながら、翠蓮は二振りの刀を見つめる。すると雨月が声をかける。
「……蓮くん、彼女はきっと信じてもいいと思うよ」
「確かに俺もそう思った。でもお前がどうして思ったのか聞きたい」
「それは彼女が君を見ていた目だよ。本当に優しい目をしてた…自分の子供のように。後、長年培われた勘だよ。俺は人を見極める目は確かなんだ!」
「なるほどな。てか、お前…虎柏と会ったことあったか?」
翠蓮はそう言いながら首を傾げた。そんな純粋な疑問に雨月は、笑いながら答える。
「直接は見てないけど、君の視界越しに見たよ!」
「あぁ、そうだったな。忘れてたな」
「君、相当疲れてるんじゃないのー?早く寝なよ」
「そうだな、そうさせてもらう」
翠蓮はそう言い目を擦りながら、風呂のある方へと向かう。その姿を雨月は心配そうに見送った。
暫くすると、何事もなかったかのように風呂に入った翠蓮が欠伸をしていた。だが、雨月は翠蓮の髪が完全に乾いていないのを見つける。
「もう、駄目だよ?蓮くん、まだ髪が濡れてるじゃない」
「……んー?これくらいなら乾くから良い」
「だーめ!髪は大切にしないと、俺が乾かすからソファー座って」
「……分かった」
翠蓮は眠気眼で、長椅子に座る。すると雨月が髪乾燥機を持ってきて翠蓮の髪を乾かし始めた。だが雨月は髪乾燥機を使うのは昨日が初めて。あまつさえ、翠蓮のような長い髪を乾かすのは初めてであったため雨月は必死で乾かしていた。そんな必死な雨月を横目に翠蓮は、うつらうつらと夢の中に片足を突っ込みかけていた。刹那、翠蓮は肩を優しく叩かれて意識がはっきりとした。すると雨月が口を開く。
「はい、乾かし終わったよ。歯磨きはした?」
「…した」
「そう、じゃあおやすみ」
「おやすみ」
翠蓮はそう言いながら自室に戻る。それを見届けた雨月は髪乾燥機を片付けながら翠蓮の様子に少々驚きを隠せなかった。何故なら、翠蓮は眠っていても霊刀操作を乱さず、あまつさえ無防備な様子にも関わらず一切の隙がない佇まいであったのだから。…ここが戦場であればともかく、ここは一番無防備になるであろう翠蓮の家である。そんな場所でもそのような芸当をするのは、一朝一夕で出来るようなものではない。そのことを痛いほどよく知っている雨月は、翠蓮が今までどんなに自己研鑽を重ねてきたのかを察するのだった。
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