最強の陰陽師、実力を隠して学園に通う!?

紫野 葉雪

プロローグ

 村雨の音が聞こえてくる最中、僕…りん 翠蓮すいれんは自宅でとある人物を待っていた。

 

……どこか嫌な予感を感じ取りながら。

 

 その感覚は背筋が凍るような悪寒が翠蓮の背中を伝う。

 

………気の所為だ。

 

――そう思いながら待っていたが、雨音に乗じて嫌な思い出や恐ろしい想像が翠蓮の脳内に浮かんできた。

 

 翠蓮はそれに耐えられず、護符と刀を携えて外に出る。その際の翠蓮は腰までの長い黒髪と両耳に赤い小指くらいの大きさの耳飾りをはためかせていた。

 

――その刹那、遠くでふらふらとしている人間に目を向けた。翠蓮はその気配で待っていた人間だと察すると即座にその人間の元へと駆け寄りその人を支えた。雨に濡れることも厭わずに。

 

 よく見てみると、その人間の体はボロボロで傷だらけだった。

 

れい!何があった。誰にやられた!?」

 

 と言いながら翠蓮の手当をしようとする手を零は優しく制して口を開く。

 

「待って、これだけは言いたいんだ。翠蓮、誕生日おめでと」

 

 零は穏やかな言葉でそう言う。それを聞いた翠蓮は零は助からないと察してしまった。翠蓮は懐から傘を取り出し零の方に傾ける。そして零は途切れ途切れの言葉を紡ぐ。

 

「君は、優しいから…俺のことも引き摺ってくれるんだろうね。今もご両親や俺に褒められた髪を伸ばしているようにね。気にするなって言っても気にするよね。君はそう言う人間、だからさ」

 

 と言いながら零はゆっくりと身体を起こし翠蓮に抱擁するような仕草をする。だが、それは何かをしていているようだった。翠蓮は首を傾げながら零が何かをし終えるまで待った。すると零が微笑む。

 

「うん、やっぱり…君は髪を括ったほうがかっこいいよ」

 

「お前…」

 

 翠蓮は括ってくれた髪紐を優しく触れながら言う。

 

……これを買う為に一人で出かけたのか?

 

 翠蓮は馬鹿だなと思いながらも零らしいと言う考えが複雑に絡み合って何を言えばいいか分からなくなっていた。

 

 だが、そんな翠蓮を見透かすように零は自分の刀を取り出した。そして零は霊力を刀に注ぎ込もうとしていた。

 

――!こいつ、まさか!?

 

 翠蓮は思い出した。両親が妖怪に攻撃されて息も絶え絶えの状態で翠蓮の刀に霊力を注ぎ込み霊刀に昇華させて息絶えたことを。

 

「零!やめろ、このままだとお前が……」

 

「死ぬなら、君が死ぬ迄…君の矛として君を支えたいからね。カハッ、そ…その方が俺が救われるんだよ。何も遺してあげられないよりかは。……ハハッ、俺達の父さんと母さんもそう思ってたんだろうね」

 

 血を吐きながら目が次第に虚ろになりながら自分の刀に霊力を注ぐ零を見て翠蓮は何も言えなかった。

 

……僕も逆の立場であれば同じことを考えてた。

 

 翠蓮は自分には止められない。……止める方法が思いつかなかったのだ。

 

―――そして、零は息絶えた。その前に翠蓮に自分の刀を差し出して亡くなった。

 

 すると翠蓮は気づいたら必要な手続きを済ませていた。翠蓮は、リビングで無表情で2つの刀を見ていた。そうしていると、翠蓮は両親と零の声が聞こえたような気がした。翠蓮は護符と2つの刀を背中と腰に携えて家を出る。


―――家族の分までが人類に仇なす妖怪を祓う。

 

 そう考えながら翠蓮は妖怪退治に勤しんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る