第1話

 あれから、3年が経った。翠蓮は一人で妖怪を払い続けた。

 

 するとある女性が妖怪に襲われている所を発見し、翠蓮が女性を庇うように女性の前に出た。そして腰に携えた刀の鞘を引き抜き即座に妖怪を切り捨てた。

 

 刀に着いた血を払い落としながら女性の方を見て怪我がないのを確認して去ろうとする翠蓮を女性は声をかける。

 

「ちょっと待って!」

 

「何だ、俺は依頼を終えたから帰ろうとしてたんだが」

 

「君、見たところ子供だよね?学校は行ってるの?」

 

「……お前に関係ないだろう」

 

 と冷たく言い放つ。だが、女性はそれを物ともしなかった。

 

「確かに関係ないけど、一応教育者として気になったのよ」

 

「……行ってねぇよ。3年前から」

 

「3年前から?ご両親は?お友達は?心配してるんじゃないの?」

 

「両親も唯一の親友も、もう居ねぇ」

 

 その言葉で女性は何かを察したのか言葉を失った。

 

―――もう良いだろう。答えてやることは答えた。

 

 そう考えながら翠蓮は再度歩き出す。すると女性は先程より控えめに翠蓮の服の裾を引っ張った。翠蓮はめんどくさそうに女性の方へ振り向いた。

 

「……んだよ。まだ聞きたいのかよ」

 

「ごめんなさい、深く踏み込みすぎたわね。貴方が一人で妖怪を退治している時点で察して置くべきだった」

 

「別に、気にしてねぇよ」

 

「……それにしても、貴方…強いわね。階級は何級なの?」

 

 女性は優しい声色で聞いてきた。その山吹色の目は全てを受け入れてくれそうな程に温かい目をしていた。翠蓮は目を逸らしながらぶっきらぼうに答える。

 

「……準一級」

 

「え、貴方…準特級くらいの実力はあるのに……。あ、一人だからか」

 

「あぁ、一級からは相棒が必要だからな」

 

 それを聞いた女性は、考えていた。だが、その様子は無防備そのものだった。

 

―――こいつ、絶対に一般人だろ。よくもまあ、ここで俺が来るまで妖怪に襲われなかったな。

 

 と思いながらも翠蓮は頭をガシガシとかきながら声をかける。

 

「おい、ここには妖怪がいるんだぞ。考えるなら安全な場所で考えろよ」

 

「あ、ごめんごめん!私は虎柏こはくうめ!貴方は?」

 

「……霖 翠蓮」

 

「え!?霖家って…代々優秀な陰陽師を輩出してる由緒正しき家じゃない!?そりゃ強いわけだわ!!」

 

 梅は嬉しそうに翠蓮に微笑み翠蓮の手を取る。すると梅は気づく。翠蓮の手は胼胝たこだらけだったことに。それらは翠蓮が自分の優れた霊力や力に溺れず、努力を重ねた結果だと察した。翠蓮は面倒くさそうに自分の手と梅の手を引き離しながら梅に声をかける。

 

「おい、さっさと行くぞ」

 

「うん、わかったよ」

 

 梅はそう言いながら翠蓮の後ろを追う。するとこちらに駆け寄ってくる者がいた。翠蓮は梅を庇うように刀に手をかけながら臨戦態勢を取り駆け寄る者へと圧と言う名の霊力を飛ばす。

 

「それ以上、近づくな。階級、名前、そして用事を言え」

 

 その刹那、翠蓮に威圧された者は無抵抗の意思を伝えるべく両手を上げて答えた。

 

「一級の朱雀すざく、用事はそっちにいる虎柏 梅の部下として助けに来たんだ」

 

 その言葉を聞き翠蓮は呪文を唱えて朱雀を結界で包む。それは逃げられないようにするためと無防備な朱雀を妖怪から守るものだった。そして翠蓮は朱雀から一瞬たりとも目を逸らさずに梅に問う。

 

「おい、こいつは本当にお前の部下か?」

 

「うん、そうだよ」

 

「そうか」

 

 と言いながら翠蓮は臨戦態勢を解き、朱雀にこちらに来るように言う。すると朱雀はこちらに来た。その刹那、朱雀の隣から妖怪が飛び出てきた。翠蓮は即座に妖怪に人差し指と中指を指して呪文を唱える。

 

「火よ」

 

 と言った刹那、翠蓮の指先から火の矢を即座に妖怪に向けて発射された。妖怪は避けようとするが翠蓮が指先を軽く曲げた刹那、火の矢がありえない方向へと曲がり妖怪を正確に貫き、妖怪は消えて行った。

 それを見た二人は翠蓮を見ながら言葉を失った。何故なら、霊術を使うには霊力操作はもちろん…呪文を唱えるのが重要なのだ。それを省略した上に火の矢はどんな陰陽師でも出来ないくらいの精巧な火の矢を顕現しそれを放った。それだけではなく放った火の矢を操って的確に妖怪を祓ったのだ。すると朱雀が無邪気に翠蓮に声をかける。

 

「いやぁ、助かったよ!ありがとう!!」

 

「別に、じゃあ…俺は帰る」

 

 翠蓮は面倒くさそうに帰ろうとする。すると梅が慌てて翠蓮に声をかけるべく口を開く。

 

「ねぇ、翠蓮。貴方、うちの学校に来ない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る