第08話 順調~Side黒~

あの日、白石の部屋で役割分担を決めた後、俺は自分の部屋で、机に向かってノートを開いた。


白石からのLineには


『じゃあ、世界観とキャラ設定はお願い』


とかいてあった。


……任せろ。


物語を作るのは、俺の得意分野だ。


善は急げ、物語の舞台を決めよう。


まず、ジャンル。


SF?ファンタジー?現代もの?


色々考えてみる。


SF――知識が足りない。


ファンタジー――世界観の構築が大変。


現代もの――ありふれてる。


……学園ものはどうだ?


俺も白石も、高校生。身近な題材なので描きやすいはずだ。


……とりあえず、第1作は学園ものでいこう。


でも学園単体だとちょっと弱い。もう一声。


学園×ファンタジー。


これでいこう。学園に一匙のスパイス。ファンタジー感。


腕組みをして中空を見つめること5分。俺はノートにタイトルやキャラ設定をまとめた。


「隣の席の吸血鬼」。


主人公:ハルト。高校2年生。

ヒロイン:ルイーゼ。吸血鬼。


ルイーゼは生きるのに生命力が必要。血を吸う代わりに、生命力を分けてもらう。ルイーゼは、対象に隣の席の男子ハルトを選ぶ。


生命力を奪うには『接触』が必要。だから、密着する。つまり、エロい展開になる。


キャラの設定を煮詰める。


ハルト:平凡な男子。

ルイーゼ:美少女。クール。


……こんなもんか


(もっと細かく設定すべきか?)


でも、まあいいだろう。


第1作だし。


それより、面白い物語を作ることが大事だ。


(今度こそ、読まれるはずだ)


PV一桁の俺の小説。


でも、白石の絵があれば――


プロットも書く。


導入:ルイーゼが吸血鬼だとバレる

展開:ハルトはルイーゼに生命力を分け与えることに

クライマックス:接触が増えて、惹かれ合う

ラスト:結ばれる


3時間後。


プロット完成。


A4で3ページだ。


テキストファイルを白石に送信。


『プロット完成。送ったぞ』


すぐに返信。


『待ってた!見る!』


しばらくして。


『……いいんじゃない?』


『……だろ?』


『でも、ハルトって、なんで主人公なの?』


『……ん?』


『普通の男子でしょ?なんでルイーゼがハルトを選ぶの?』


──そんなこと考えてなかった)


『……たまたま隣の席だから』


『……それだけ?』


『……ダメか?』


『……まあ、いいわ。とりあえずこれで描いてみる』


……大丈夫、だよな?


少し不安になる。


でも、まあいいか。


第1作だし。



翌日。


放課後。


白石の部屋。


打ち合わせ2回目。


「で、キャラデザなんだけど」


白石がタブレットを見せる。


画面には、二人のキャラクター。


ハルト:黒髪、真面目そうな顔立ち、学ラン。

ルイーゼ:銀髪、赤い目、美少女、クール。


「……すごいな」


思わず声が出た。


「でしょ?描くの速いのよ、あたし」


白石が得意げに笑う。


昨日プロットを送って、もうキャラデザが完成してる。


しかも――


(めちゃくちゃ上手い)


イラストレーターとして活動してるだけある。


いや、それ以上だ。


「表情パターンも描いたわ」


タブレットをスワイプ。


笑顔、照れ顔、怒り顔、泣き顔。


そして――


エロい顔。


「……」


エロい顔をじっと見つめている俺に気づいた白石。


「何よ、エロ漫画なんだから必要でしょ」


赤面してそっぽ向いた。


「……そうだな」


顔が少し熱くなる。


「ルイーゼ、可愛いな」


「……ありがと」


白石が少し照れる。


「じゃあ、次は作画ね」


「もう描くのか?」


「そうよ。セリフとか演出は、描きながら決めましょう」


「……そうか」


確かに、その方がいいかもしれない。


実際に絵を見ながらの方が、セリフも決めやすい。


(エロシーンも……まあ、その時考えよう)


今は、とにかく描き始めることが大事だ。


「じゃあ、あたし明日から描き始めるわ」


「……わかった」


「結構順調じゃない?」


白石が笑う。


「……そうかもな」


俺も笑った。


小説とイラスト。


二人の才能が合わさったら、最強のエロ漫画が描ける。


そう思った。



その日の夜、自分の部屋にてスマホを見ていた。


白石からメッセージ。


『今日は楽しかったわ』


『……ああ、俺も』


『明日から作画に入るわね』


『……頼む』


『任せなさい。絶対いいの描くから』


『……期待してる』


『じゃあ、おやすみ』


『……おやすみ』


スマホを置く。


(……楽しみだな)


初めての共同制作。


初めてのエロ漫画。


プロットは完璧。


キャラデザも完璧。


これが成功したら――


PV一桁から脱出できる。


評価される。認められる。


(……頑張ろう)


そう思いながら、眠りについた。


――しかし、この楽観は、すぐに打ち砕かれることになる。

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