第4話 隠された真実2
村に戻ると、フリードリヒおじいさんのところへ子犬を連れて行った。
家畜の世話が上手な村の獣医だ。
「ほう……」
おじいさんが添え木を確認しながら、感心したように唸った。
「よく手当したもんだ。もう少しで完治する」
そして、エミールの頭を撫でた。
「お前、将来は立派な獣医になれるかもしれんぞ」
エミールが嬉しそうに顔を輝かせている。
「本当!?」
「ああ、本当さ。命を大切にする心があれば、立派な獣医になれる」
グスタフさんが、エミールの頭を撫でた。
「この子犬、うちで飼ってもいいか?」
エミールとヨハンさんが、驚いた表情を浮かべた。
「トミーも犬を飼いたいと言ってたんだ。ちょうどいい」
グスタフさんが優しく笑う。
「それに、エミールが一生懸命助けた命だ。大切にしねぇとな」
エミールの心から、歓喜のファンファーレが鳴り響いた。
――ああ、この子、本当に嬉しいんだ。
声は出なくても、心の音が全部教えてくれる。
「グスタフ……本当にありがとう」
ヨハンさんが深々と頭を下げた。
「いいってことよ!それより、俺の斧だ」
グスタフさんが小屋の近くに置いてあった斧を手に取った。
柄には、確かに三日月と星の模様が彫られている。
「親父の形見だ……無事で良かった……」
グスタフさんが斧を大切そうに握りしめる。
その心から、温かなヴィオラが響いてきた。
父への感謝。そして、エミールへの優しさ……。
エミールのフルートとグスタフさんの太鼓が、互いにリズムを取りながら、小気味の良いワルツを奏でている。
ああ、とっても聴いていて気持ちの良い音楽だ。
ずっと聴いていたい気持ちになりながら、二人の元へと歩いて行った。
その夜。村の広場ではささやかな宴が開かれた。
「アリアのおかげで、村に平和が戻った!」
村長のオットーさんが、杯を掲げる。
村人たちの拍手と歓声。
まぁ、何かと理由をつけてお酒を飲みたがる男性陣の、いい口実に使われたんだろう。
でも、感謝されて嫌なわけじゃないし、ありがとうと言われたら嬉しい。
私は、少し照れながら答えた。
「私は、何もしていません。みんなが自分で答えを見つけ出したんです」
「謙遜するんじゃねぇよ、アリア」
お酒が入ったグラスを片手に、グスタフさんが豪快に笑い声をあげる。
「お前がいなかったら、俺とヨハンは殴り合いになってたぞ」
「そうだな。殴り合いになったところで、俺が勝つがな」
こちらもお酒を飲んでいるヨハンさんが、グスタフさんを挑発するように憎まれ口をたたく。
「なんだとお前ぇ!俺がお前に喧嘩で負けるってか!?」
「そうだな。少なくともお前には負けないぜ」
あぁ、もう!これだから酔っ払いは……。
「上等だ!どっちが村の喧嘩自慢か決着をつけてやる!」
「望むところだ、グスタフ!」
「あぁぁ……どうしたら……」
いきなり喧嘩になりそうな二人の後ろにスッと人影が寄っていく。
「……二人とも?」
「……こっちにいらっしゃい?」
ヒートアップした二人の耳を、それぞれの奥さんが引っ張って止めた。
「……いててて!ごめんって母ちゃん!」
「わかった!俺が悪かった!」
奥さん達に頭が上がらない二人は、まとめてお説教を受けていた。
「……ごめんなさいね、アリア。うちの人が迷惑かけたみたいで」
「こっちは、息子も旦那も両方が迷惑かけたみたいで……ごめんね、アリア」
二人の奥さんのディアーナさんとマーガレットさん。
申し訳なさそうに眉尻を下げて、こちらに謝ってきた。
「いいえ、みんな優しかったですよ」
ディアーナさん達に笑顔で答える。
「エミールったら、あんなことをしていたなんて、私も驚いたわ」
「そうよ、とっても立派なことだわ。それに、トミーも子犬と遊べて喜んでる」
二人とも、エミールの事をちゃんと褒めてくれていた。
三人でしばらくお喋りをした後、私は温かいスープを貰い、口に含んだ。
「美味しい……」
優しい味が、心に染み渡る。
「よくやったな、アリア」
父が私の横に来て、そう言った。
父の心から、温かなヴィオラが聴こえてくる。
深く重厚な音色の中に、愛情のカンタービレが流れている。
そして――母への感謝の旋律も。
普段無口な父の心は、こんなにも表情豊かだったんだ。
不器用なだけで、心の優しい父らしいと思う。
エミールは、子犬を抱いてトミーと一緒に遊んでいる。
「この子の名前、なににする?」
トミーが尋ねると、エミールは少し考えて答えた。
「メロディア!この村の名前にしよう!」
「メロディア?いい名前だね!」
二人の少年の心から、明るいリコーダーの音が響いている。
純粋な、喜びの調べ。
村人たちの笑い声、音楽、歌。
心の音も、みんな調和している。
これが――幸せなんだ。
私はそっと目を閉じた。
村人たちの心の音が、ひとつに調和していく。
――それは、とても美しいオーケストラだった。
宴が終わり、家に帰る道。
星空が美しく輝いている。
クレッシェンドとディミヌエンド――2つの月が夜空を照らしている。
父と並んで歩きながら、私は思った。
このチカラは、まだわからないことだらけ。
でも――
グスタフさんの笑顔。
エミールの嬉しそうな顔。
村人たちの心の音が調和した、あの温かさ。
――誰かを笑顔にできる。
それが、何より嬉しかった。
家に着くと、父がランプに火を点けた。
優しい明かりが部屋を照らす。
私は母の形見のショールを手に取った。
「お母さん……」
そっと抱きしめる。
もう、温もりは残っていない。
それでも――母の面影を、感じられる気がした。
「私、頑張るね。このチカラで、みんなを笑顔にする」
窓の外で、夜風が森の木々を揺らしている。
葉が擦れ合う音。
――それは、母の子守歌のように聴こえた。
優しく、温かく。
私を包み込むように。
月明かりが窓から差し込んで、部屋を銀色に染めていく。
明日からまた、新しい一日が始まる。
このチカラと共に――。
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