第4話 公園の“ふわボム”と落葉許可制
朝。集合は王都中央公園の犬走りエリア。
地面は落ち葉でふかふか、空気は少し乾き気味、そして――
「ふわボムだぁぁぁー!」
子どもたちが歓声を上げる。腕いっぱいの落ち葉をぎゅっと丸め、真ん中に犬の毛玉を入れてぽいっ。
すると球は転がりながら葉を巻き込み、あっという間に二倍……いや三倍に膨らむ。
「増えるタイプのボム出たな」と俺。
「楽しいけど危ない」とユキチ。
フウコが風鈴を鳴らす。「風路が輪っかになってる。回生してるね、無限に」
「誰の仕業?」
「“落ち葉の気持ち:転がりたい、集まりたい、爆ぜたい(ぱふっ)”。――楽しそう」とカルカ。
シルヴィオは腕を組み、新しい名刺を配った。監査官/公共空間撫術安全室 室長(代理)/落葉特区監督(臨時)。
「今日の目標。遊びを奪わずに危険だけ消す」
「最高に難しいやつ!」
公園管理局の制服を着た初老の園長が駆け寄る。名札にパイン園長。
「助けてくれ。昨夜から“ふわボム”が出続けでな。犬や子どもは喜ぶが、ベンチが埋もれる」
「ベンチの人権」
「ある」
現場観察と原因仮説
俺たちは丘の上から風の筋を見た。フウコが空に白線を引く。
「見える化完了。周回風路×三、地面の凸凹がコア。コアには――」
ユキチがしゃがむ。「犬の毛+静電気+どんぐりの油」
カルカが耳を伏せる。「落ち葉たちの気持ちがお祭りになってる。“くっついて大きくなって、どーん”」
「楽しい方向を別の楽しいに変える、だな」
園長が帽子を握る。「ただ、落ち葉は拾いすぎるなが公園の掟でな。土が痩せる」
「資源循環、だよね。――よし、許可制でゾーニングしよう。『遊んでOKの落葉』『残す落葉』を分ける」
シルヴィオが書類をすっと差し出す。
「臨時落葉運用規程案(案)。ゾーンA:遊戯可、ゾーンB:堆肥化、ゾーンC:景観保全。ふわボムはゾーンAでのみ公認、サイズ制限あり」
「仕事が早い」
「でも根本の風路を直さないと、A以外にもボムが転がる」とフウコ。
「風路再設計と撫でだな。今日の契約枠は3/3、リセット済み。誰にモフ契する?」
「落葉の親分と話すべき」とユキチ。
カルカが鼻をすんすん。「でっかい木霊がいる。“ケヤキさん、気が大きくなってる”」
ケヤキの木霊と10秒交渉
公園中央の大欅。幹に手を当てると、ざわっと葉が笑った。
『秋は祭り。転がって、跳ねて、舞って――ぱふっ!』
「テンションが高い!」
『人の笑いも混じると、もっと高い!』
カルカが翻訳を添える。「“うれしい、でもちょっとやり過ぎた”」
「ケヤキさん、祭りは続けていい。だけど場所を変えよう。安全な輪っかを作る。そこだけ風と葉を集める。その代わり――」
『代わり?』
「落ち葉券を発行する。集めた分だけ園の堆肥ポイントに換算、来春の花壇に名札を出す。『○○くんの葉っぱ』って」
『名札!』
「名札が大好きな木だ」とフウコが笑う。
『名札うれしい! けど、人の約束は風より切れやすい』
「じゃあ、契約で結ぼう。10秒だけ撫でて“祭りの段取り”を共有する。対等契約だ」
俺は幹の節のあたりを撫でた。乾いた樹皮のささくれの間、柔らかい苔。
10、9、8…
『そこ……うむ、いい。そこは春の名残』
7、6、5…
「秋の祭りは輪で。Aゾーンだけ。Bゾーンは眠りのために残す」
4、3、2、1――契約成立!
ぱらぱら、と葉が一斉にうなずいた。頭の中に太い声。
『輪を覚えた。祭りは輪で。名札は約束』
ウィンドウが更新される。
【リンク更新】
新規:ケヤキの木霊――落葉誘導(中)/防風帯形成/土壌気分の可視化
副作用:ポケットにどんぐりが勝手に入る
「勝手に入れるな!」
「秋の付与品」とフウコ。
公認ふわボム場、開設
フウコが空に四角を描く。風が低く太く回りはじめ、地面の白線(落ち葉で描いた)に沿って輪っかができる。
ユキチが静電気オフの結界を薄く乗せ、ケヤキのリンクで葉がそこに寄る。
俺はトキワ製の落葉リングフレーム(伸縮式)を地面に設置。
「ここが公認ふわボム場です! サイズは“子の頭より小さい”まで!」
子どもたちが「やったー!」と集まる。園長が胸をなでおろす。
「ベンチにも名札を付けられそうだ」
「名札中毒」
そのとき、草むらがもぞ。茶色い丸が二つ、ころり。
「出た、ハリモフ」とユキチが耳を立てる。
針だらけのハリネズミ精霊(冬毛でふわ)が、落ち葉を背中に刺して転がっている。
『ふわボム、最高。無限。もっと』
「あなたがコアを作ってるの?」
『作ってる。刺さる。楽しい』
カルカが眉を寄せる。「“誰かに撫でてもらいたい。でも針があるから、いつも遠慮される”」
「そういうことか……」
「撫でられたいのに刺さる、は課題だな。――ハリモフ、手袋ありなら撫でる。契約もできる。10秒だけ」
『ほんと?』
「ほんと」
俺は風撫でグローブにケヤキの防風帯を薄く重ね、針の向きが寝た瞬間を狙ってそっと撫でる。
10、9、8…
『そこ、そこすごい……(目がとろん)』
7、6、5…
「ふわボムは公認場だけね。背中で作るなら、サイズ制限」
4、3、2、1――契約成立!
【リンク更新】
新規:ハリモフ――吸着制御(微)/刺さらない姿勢指導/背中で運ぶ(小)
副作用:衣服にちいさい穴(目立たないけど増える)
「増えたくない穴!」
「あとで毛費で補修」とシルヴィオ。
「毛費万能だな」
小事件:“ふわボム”暴発
公認場の外側、悪戯好きの風小精霊がこっそり葉を持ち逃げ。
「まったー!」とフウコが追うが、子どもが笑って追いかけ、場外にふわボムが転がる。
途端にベビーカーがもこっと埋まった。
「やばい!」
「段取り!」と自分に言い聞かせる。
「ユキチ、ベビーカー周りだけ急冷! 静電気をゼロへ!」
「はい!」
「フウコ、向かい風で膨張を止める!」
『りょーかい!』
「ハリモフ、刺さない姿勢! 背中でボムを持ち上げて、リング内へ搬送!」
『持つ!(すごく嬉しそう)』
ぽん、と空気が収まり、ベビーカーの赤ん坊がぱちぱち拍手。
園長が額の汗を拭く。「神対応だった」
「神ではなく段取りです」
「段取り、神」
仕上げ:落葉許可と名札
シルヴィオが板を掲げる。
【落葉許可票】
A:遊戯許可(ふわボム)/B:堆肥優先/C:景観優先
*公認場以外での“ボム作成”は一日三個まで(子ごと)
「三個って絶妙」とカルカ。
「KPIは笑顔と鼻炎のバランス」とシルヴィオ。
「鼻炎をKPIにするな」
ケヤキの幹に名札板を括りつける。“今年の落葉、協力:○○くん、○○ちゃん、ハリモフ”。
『名札うれしい。春、花たちにも見せる』と木霊が満足げ。
俺のポケットがぼこん。どんぐりが三個増えていた。
「勝手に入れるなって!」
「秋のボーナスだよ」とフウコ。
夕方の片付け
公園の風は穏やか。ふわボム場には笑い声、外周は落ち着いている。
綿ねずみ精霊の回収カートに、ハリモフが背中で落ち葉を運搬。ユキチが冷気で埃を落とし、フウコが風でふわっと香りを残す。
園長が頭を下げた。
「ありがとう。遊びを奪わずに守ってくれた。来春、花壇の前に名札を置こう」
「それが約束。契約でも確定済み」
シルヴィオが書類を手早くまとめる。
「本日の法的問題:なし。鼻炎指数:中→低。笑顔指標:維持。名札満足度:高」
「指標の語彙がやばい」
俺のステ窓が更新される。
【黒田ツナ Lv.13→14】
撫術:EX(維持) 交渉:A- → A
新規リンク:ケヤキの木霊/ハリモフ
備考:落葉許可運用スタート/ベンチの信用+1/どんぐり在庫+12
「在庫管理は資源ポイントに寄せといて」
「了解」とシルヴィオ。名刺がまた増えた。資源循環監督(兼)。
「肩書で風が立つレベル」
夕暮れ、ふわボム場の壁に夕日が当たって金色。
フウコがくすくす笑う。
『次は“ふわボム夜間版”。月光で静かに遊ぶの。音小さめ、夢を邪魔しないやつ』
「静音設計、いいね」
ユキチがぽふ。「毛布、持ってくる」
「毛に戻すな」
こうして、公園案件は遊びを残したまま収束した。
明日は――掲示板の新着に**「地下書庫、紙魚(しみ)大量発生」の文字。
「紙の敵!」
フウコが紙をぱらぱらめくりかけ、俺が慌てて押さえた**。
「そこはめくらない!」
ステータス
【黒田ツナ Lv.14】
体力:B 魔力:C+ 機転:A 撫術:EX
固有:〈モフ契〉〈群れリンク〉〈ステ窓チャット〉
連携中:ユキチ(冷却/結界↑)、ムクラ(敏捷/嗅覚↑)、フウコ(速度↑↑/落下耐性)、ケヤキの木霊(落葉誘導)、ハリモフ(吸着制御)
本日の契約:2/3(残1)
備考:落葉許可ゾーンA/B/C運用開始/名札板 1枚設置/どんぐり在庫+12(使途:未定)
モフ一口コーナー
ユキチ「遊びはゼロにしない。危ないとこだけ冷やして、方向を変えるのがコツ」
フウコ「風路は太く低くが安全。輪っかは必ず出口を作ろう」
カルカ「気持ちは“止める”より“別の楽しいに翻訳”!」
シルヴィオ「名札は強い契約。紙にも木にも、人にも効く」
ハリモフ『撫でるなら手袋! でも優しく!』
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