第41話 ルルの記憶③

「学園イケメン」は、ついにテストプレイ段階まで完成した。

 ターゲットは高校生。

 リアルな反応を確かめるため、一般募集が行われた。

 そして――一人の少女が名乗りを上げた。 

 普段から様々な乙女ゲームを楽しんでいる女子高校生だ。

 開発者は彼女へ、テストプレイを依頼した。


 テストプレイを始めて2週間。

 ……開発に修正不可能な不具合が発生した。

 メインキャラクターの一人――ルル・マルランが、「心」を持ったのだ。 

 プログラムに反した言葉、行動。

 自由を手に入れた機械人形への恐怖。

 このまま発売するわけにはいかない。

 ――無情にも「学園イケメン」は開発中止が下された。


「真宵さん、このような結果になってしまい申し訳ない。」

「いえ、謝らないでください。私、今までのゲームで、この作品が1番楽しかったです。」

「そうか。猶のこと販売中止が悔やまれるな。……残念な結果を生んでしまったのは、ルル・マルランが原因でな。」

「……え?」

「真宵さんのようなプレイヤーを楽しませるために作ったのに……。恐怖を与えてどうする。悲しい思いをさせるなんて、キャラクターとして失格だ。」 

「……いや。」

「真宵さん、怖かっただろう。このようなキャラクターを生み出してすまない。君のゲーム歴に一つ傷をつけてしまったね。」

「ちょっと。」

「改めてゲーム開発に協力してくれてありがとう。……そして、本当に申し訳なかった。どうか、このゲームを忘れてほしい。」

「まって……っ!」

「――「学園イケメン」、そして「ルル・マルラン」は本日限りでデータ削除を行う。」

「ちょっと待ってください!」


 彼女は目にいっぱいの涙を貯めている。

 予想外の展開に狼狽える開発者。


「どうしたんだい、真宵さん。」

「――ルルさんをいらないなんて、言わないでください!あの時間は、私の宝物なんです!」


 その声は、開発者の心に衝撃を与えた。

 彼女から、本来あるべき恐怖心を一切感じないのだ。

 機械人形に意思があることを、受け入れている。

 ただただ――「ルル・マルラン」への愛情だけが伝わってくる。


「……どういうことだい?」

「私、ルルさんが好きです。今までずっと憧れていた「恋」を彼に教えてもらいました。恋は世界がキラキラと輝かせ、毎日が楽しかった。」

「…………。」

「……お願いです。ルルさんを否定しないでください……。」


 肩を震わせ、頬を赤く染めている彼女。

 自分よりも一回り大きい大人へ怒りの感情をぶつけた。

 好きな人のために勇気を振り絞ったのだ。

 ……恋する女性は、とても逞しい。


「――真宵さん、ルルのことを愛してくれてありがとう。開発者としてこれほど嬉しいことはない。」


「お前は俺様を認めてくれた。いつも愛してくれた。これ以上の幸福は無い。――ありがとう、真宵。」


 ルルさんの抱きしめる力が強くなる。

 彼の「心」の音がこちらにも聞こえてきた。

 ……そっか、ずっと私はルルさんのことが好きだったんだ。

 記憶を奪われたとしても、この想いだけは守りきった。

「恋」は、なんて誇らしい感情なんだろう。

 ――そして、その相手がルルさんでよかった。


「さぁ、文化祭までもう少しだ真宵。お前の記憶を奪ったやつと決着つけよう。」

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