第38話 ルルの記憶①

 魔力に長けたルルの内で、世界が軋む音がした。

 神様の放った力が、空間を裂くようにこの学園を貫いた。

 本来、誰にも届かぬはずのその力を、ルルは確かに感じ取った。 

 ――それは、ゲームのプログラムを書き換え、本来持ちえないはずの「心」をキャラクターに持たせるというものだった。


 ルルは、決して手にしてはならないものを手に入れた。

 ――それは、「心」

 世界の綻びからこぼれ落ちた、ひとしずくの感情だった。

 

 ――ルルは全てを知る。

 自身が「学園イケメン」のキャラクターであること。

 ヒロインを通し、プレイヤーを愛するために生まれてきたこと。

 ふと、副会長の奥に潜む「誰か」と目が合った。

 画面の向こう側にいるはずの存在が、微笑んでいる。

 頬が紅潮し、唇が柔らかく弧を描く。

 まるで初恋が実ったかのように――心から幸せそうに、ルルを見つめていた。

 その幸福は、プログラムでは再現できない本物の温度を帯びていた。

 

「――くくっ……はは、はははは!」


 胸の奥が熱くて、笑うしかなかった。

 こんな気持ち、プログラムのどこにも書かれていない。

 ……今まで、俺様は副会長に対し、開発者が指示した愛情を表現していただけだ。

 言葉も仕草も表情も全て、俺様の意思ではない。

 こいつを喜ばせるようなことは何もしていない。

 ……なのに、こいつは無条件に俺様を愛してくれる。

 心の底から俺様を想っているのか。

 なんて俺様は幸福なキャラクターなんだ。

 いや、キャラクターではない。


 ――「心」を手に入れた一人の人間だ。


「心」があれば自由に話し、相手を想うことができる。

 これからは俺様自身の言葉で、行動で彼女を幸せにしてやれる。


 ――今度は俺様が愛したい。


 プログラムされた言葉、行動ではなく、俺様の意思で彼女を愛したい。


「おい、神様。いるんだろう?」

「お、よく朕の存在を見抜いたね。何か用かい?」

「せっかく心を手に入れたんだ。――俺様を一人の人間として真宵のことを愛させてくれ。」

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