2.3 最初の成果

大山はポケットから、アンシン丸を取り出した。




「あの。実は、私の**『研究協力』している少女が開発した『発明品』**がありまして」




ヤマダさんは、涙を拭きながら、胡散臭そうにアンシン丸を見た。




「これは、『見えない不安を可視化し、消去する装置』、通称『アンシン丸』です。…使い方は、これを握って、一番困っていることを念じながら**『あなた、実は5グラムでしょ!』**と心で唱えるだけです」




「はぁ?」ヤマダさんは完全に引いていた。


アカリは遠くから、**「早く、社会的な重圧に打ち勝ちなさい!」**というような熱い視線を送っている。


大山は、もう後には引けなかった。




「お願いします! 私の研究のため、一瞬だけ、この子の夢を叶えてやってください!」




ヤマダさんは、その必死さに負け、しぶしぶアンシン丸を受け取った。そして、目をつむり、それを強く握った。




(もうクシャミしたくない! …あなた、実は5グラムでしょ!)


その瞬間、アンシン丸から、**「プシュー」**という、空気が抜けるような小さな音がした。




「あれ?」


ヤマダさんは目を開けた。周囲を覆っていた鼻水と涙の薄い膜が、一瞬にして消え去ったような気がした。




「なんか…鼻の奥が…軽い」


ヤマダさんは、恐る恐るマスクを下げ、大きく息を吸い込んだ。




「…クシャミが出ない!」




「**『環境という名の攻撃』は、『自己の防御反応』を過剰に『偽の重力』として感じさせていたのよ」アカリが小走りで近づいてきた。




「アンシン丸は、『過剰な自己防御』が生み出す『質量』を、『無』**に変換したの!」


ヤマダさんは、アンシン丸を宝物のように握りしめ、感動していた。




「これはすごい! もう、身体が羽根のように軽い!」




「ヤマダさん。アンシン丸は、あなたに**『5グラムの軽さ』を与えたわ。これは、『環境に打ち勝つための希望』**なの」アカリは誇らしげに言った。




「ありがとう! この発明品は、本当に困ってる人を救う! あなたは、本当に役立つ人だ!」




ヤマダさんはそう言って、感激のあまり大山とアカリに深々と頭を下げ、軽やかな足取りで立ち去っていった。

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