第14話 レプリカ
玲奈は通話を終えた後、インテリアショップで見つけたB3サイズの向日葵が一輪だけ大きく描かれた写実的な絵を買って帰った。
その裏側に、優奈が言っていた通りアイロンをかけた御札を貼った。
殺風景な部屋に御札一枚よりはマシではあるが、玲奈の部屋の北西側の壁は入口の正面の角にあたる。
ベッドと机以外何もない絵が一枚だけ飾ってあるのは不自然で、向日葵の絵を中心にインテリアを揃えることにした。
机もベッドフレームも白なので、それに合わせて別の日に三段のカラーボックスを二つ買い、聡太に手伝ってもらいながら、組み立てる。
一緒に買ったカラーボックス用の扉も取り付けて、できるだけ白や薄いグレーで統一。
アクセントカラーに黄色を使うようにしてみる。
「玲奈って、向日葵が好きだったんだな」
まだ二月のこの時期に、向日葵をモチーフにしたものはあまり店頭では売っていなかったが、絵に合うようにいくつか小物も選んで飾ってみた。
これで向日葵の絵は完全にインテリアの一部となり、その裏側に御札が貼られているなんて誰も思いはしないだろうと、安心する。
「うん。最近ちょっとね」
別に向日葵は好きでも嫌いでもなかったが、聡太に訊かれて適当に相槌を打つ。
この絵も、向日葵の絵であれば正直どれでもよかったのだが、さすがにかの有名なゴッホのひまわりのレプリカは選ばなかった。
子供の頃から玲奈は、ゴッホの絵を見ると、どこか少し怖いと感じてしまう。
カラオケ店の三軒隣にあるインテリアショップの店頭ですぐに買えたのは、向日葵の絵はゴッホのレプリカ以外にはこれしかなかっただけ。
いくつか他に選択肢があったなら、別のものを選んでいたかもしれない。
「玲奈ちゃーん」
我ながら、中々センスがいい部屋になったと心の中で自画自賛していたところ、階段の方から登紀子が玲奈を呼んでいる声がした。
少なくとも玲奈がいる間、登紀子は基本的に階段を上がって二階まで来ることはなかった。
用があれば階段から今のように大きな声で、「ちょっと来てちょうだい」と声をかけるし、上がって来たとしてもひょこっと顔だけ出す。
「はい、どうしました?」
階段を降りると、登紀子は手に小包を持っていた。
「ああ、玲奈ちゃん良かった。あなた宛てに荷物が届いてるんだけどね」
「……荷物?」
まだこの家で暮らし始めて数日。
郵便物はいくつか届いたが、荷物は初めてだった。
「火村優奈さんって、妹さん?」
実家の方には、片山家の住所はまだ教えていない。
それなのに、送り主は優奈だった。
「あ、あぁ、多分、その……卒業アルバムとかだと思います。実家に置いたままにしていたんですけど、成人式で久しぶりにみんなに会って、見返したいなって思って――」
嘘だ。
そんなものは頼んでない。
中身を知られてはいけない。
見られてはいけない。
嫌な予感がして、玲奈は嘘を吐いた。
「あらそう。妹さんとは仲がいいのね」
ところが、一人になって中身を確認してみると、そこには本当に、卒業アルバムが入っていた。
小中高の三冊。
それに、羊羹の箱が二つ。
一つは本当に、ただ羊羹が入っているだけだったが、もう一つは別だ。
妙に軽いし、一度開封された形跡が残っている。
「やっぱり……」
軽い羊羹の箱には、真新しい御札が十四枚と小さな掛け軸が巻かれて入っていた。
解いて見るまでもない。
これまで嫌というほど見て来た――信者の家に必ずある、一番小さいサイズの信之丞の肖像画だ。
それと、祭壇の作り方が掛れた手書きのイラスト付きの紙が一枚。
眉間に深いしわを寄せ、玲奈はすぐに優奈にLINEを送った。
どういうつもりか問い詰めると、すぐに答えが返って来た。
額縁の裏に貼った御札一枚だけでは、片山家は守れても、玲奈自身は守れない。
玲奈が家を出て、大学やアルバイト先のケーキ屋、どこかへ外出する度に持ち歩くようのものがなければならないことに気づいて、送ったとのこと。
それなら十四枚も必要ないじゃないかと思ったが、残りは予備だ。
力の強い怪異だったら、一枚じゃ足りない場合もある。
一緒に掛け軸を送ったのは、御札だけでは効き目がなかった時の為だという。
『御札はあくまで応急処置。本当にその家に危険が及ぶようなら、部屋の中に祭壇を作って。豪華なものじゃなくていい。本棚の上でも、中でもいい。その掛け軸を通して、信之丞様の力がお姉ちゃんを守ってくれるわ』
祭壇に作りに必要なものは、百円ショップでも買えるから――と。
「作るわけないでしょう……祭壇なんて」
玲奈は御札を一枚だけ鞄の底に入れ、残りは羊羹の箱の中に戻し、カラーボックスの一番上に隠した。
扉をつけて正解だと思った。
「お義母さん、これ妹が送って来た羊羹です。よかったら食べてください」
「あら、いいの? ありがとう。この羊羹、とっても美味しいのよねぇ」
羊羹なんてどこの羊羹でも同じだろうと思ったが、
「そうですか、それは良かった」
登紀子がそう感じているならそれでいいと、わざわざ余計なことは言わなかった。
「じゃぁ、私、これからバイトなので……行ってきます」
「行ってらっしゃい。あ、今日はこの後雨らしいから、傘持って行ってね。傘立てにあるものなら、どれでも使ってもいいから」
「わかりました。ありがとうございます」
傘立てからビニル傘を一本取って、玲奈はケーキ屋へ。
三十分ほど歩くことになるため、いつものようにイヤフォンで音楽を再生する。
その道中、玲奈の少し後ろをついてくる不審な足音には、一切気がついていなかった。
「――あ、玲奈ちゃん!」
「原田さん? あれ、お家こっちの方でしたっけ?」
「ううん、ちょっと親戚の家に用があってね。玲奈ちゃん、今日これからシフトだっけ? 車乗っていく?」
「え、いいんですか?」
途中のコンビニからちょうど出て来た、ケーキ店のパート従業員・原田に声を掛けられるまで。
「いいよ。いいよ。私もお店寄らなきゃいけないし、後ろのお友達も一緒にどうぞ」
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