向こう側

 記録を読み終え、頭の中ですべてが繋がったような感覚のまま、私は部屋の奥へ奥へと進んだ。今ならあそこに入れる気がした。

 書物部屋の最奥は灯りが点いておらず、ただ真っ暗だった。卓上ランプの光が、微かに私の背のみを照らしていた。何の音も聞こえはしない。暗く、静寂な空間だった。

 私は、長机が置かれている場所に向かって右側の大きな本棚に向き合った。しかし、本棚の位置が少し変わっていた。足元の畳には、片付けの時にはなかった毛羽立つような傷がついていた。誰かが動かしたのだ。

 私はその本棚の裏に腕を回り込ませ、ありったけの力を込めてそれを倒した。ドン!という腹に響く音と埃と共に、本棚は畳に横たわった。


 そこにはコンクリートの壁があった。本来襖のはずだが、正嗣の手によって塗り固められている。

 私はそっとその壁に手を当てた。冷たく硬いはずの壁に、ぬるりという感触と共に手が、身体が入って行く。まるで、壁と身体が一体化するかのように。

 もはや恐怖はなかった。

 ただ確かめたかった。

 この血筋にかかった呪いの正体を。

 消えた叔父と父の行方を。


 そして、祖父がどんな思いで最期を迎えたのかを。


 私は一言呟いた。







































「向こう側へ」

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