第13話 キキと見る夜景
コハルを家に送り、次にリアラの住むマンションに到着する。
だが一向に彼女は車を降りようとしない。
口を開くこともせず、何故か携帯を素早く操作し始める。
すると直後に俺の携帯が音を鳴らす。
『なんでキキの家が後? 私が最後でいいじゃん!』
「…………」
順番のことで文句があるようだ。
最後にリアラを送り、本心を表すつもりだったのだろう。
だがしかし、今日はキキと話をしなければならない。
なのでリアラを先に送らなければいけないのだ。
『悪いけどキキから話があると言われてる。マネージャーとしてサポートするから今日は素直に帰ってくれ』
そうメッセージを送る俺。
女性と二人と話があるなんて言うと面倒なので、あくまで仕事上のことだと説明を入れておく。
リアラは涼しい顔でメッセージを視認しているようだが、ピクピク眉が動いているを確認できた。
「じゃあまた明日」
「……うん」
「リアラお疲れ」
リアラは車から降り、俺たちを見送るようでその場から動こうとしない。
彼女に会釈をし、車を発進させる。
「で、どこで話そうか」
「どこでもいい。あーでも、ちょっと夜景とか見ながら話したいかも」
「夜景か……分かった」
車を走らせ、バックミラーで遠くなっていくリアラを見る。
彼女は手を振るでもなく、ただ車を眺めるばかりであった。
大人しく引き下がってくれて良かったな……
また大騒ぎされたら話が進まない。
そのまま俺はとある場所まで移動した。
駐車場に車を停め、大きなビルへ向かって歩いて行く。
「ここって……夜景が綺麗で有名なビルだ」
「ああ。ここなら悪くないだろ」
エレベーターで最上階まで上がると、有料ではあるが展望デッキへと入ることができる。
料金を支払い、長いエスカレーターでまた上を目指す。
「ちょっと怖いかも。このエスカレーター」
「俺も始めてだからちょっと怖い」
「え、風間さんも初めて? お気に入りとかそういうんじゃないの?」
「こんなところに来る機会は無かったから。耳にしてたぐらいだよ」
「ふーん。意外と寂しい人生だったんだ」
「ほっとけ。寂しくて悪かったな」
そんなやりとりをしている間に、展望デッキへと到着する。
展望デッキはグルリと一周できる作りとなっており、どの方角も見渡すことができる。
ビル群の景色と海の景色。
川が流れている様子も見える。
「うわー……綺麗」
「綺麗だな。噂以上にいい場所かも」
自分の腕に頭を預けてキキは夜景を眺める。
その景色に見惚れているような、でも愁いを帯びたような、そんな表情をしていた。
「私、思ったことを口にしちゃうんだよね。ダメって分かってても言っちゃう。コハルが傷つくって分かるはずなのに、感情のまま叫んじゃってさ……嫌われてるよね」
「それは無いだろ。皆キキの真剣さをよく理解してるし、だからこそ強い言葉を吐いてしまうことも分かってくれてるよ」
「分かってくれてるのと嫌われるのはまた別の話でしょ。あーあ。たまに嫌になっちゃう。こんな自分が」
やはりキキにはキキの悩みがあるようだ。
強気でアイドルに真面目で……でも感情を露わにしてしまうのをセーブできないことを苦悩してたんだな。
性格を変えることは簡単にできなし、すぐに効果があるような解決策があるわけじゃない。
俺は悩みながらも口を開き、彼女のためを思って言葉を吐き出す。
「俺は嫌いじゃない。キキのそういうところ」
「え?」
「本気だから怒鳴ってしまって……それを良いとは言えないけど、でもこうやって悩んで。人間らしくていいじゃないか。人それぞれ悩みがあってさ。そうやって皆生きていくんだよ」
「皆悩んでるのか……リアラも悩んでるのかな」
「リアラはリアラで悩みがあるんじゃないか。そういう話は聞いたこと……あったな」
好きな人と結婚できないって言ってた。
でもあれは悩みというか愚痴というか……同情できるようなものではない。
そしてそれは俺のことで、まぁ何とも言えない問題であったりする。
「え、どんなことで悩んでるの、リアラって」
「それは言えない」
「なんでさ。教えてくれてもいいじゃん」
「じゃあキキの悩みを皆に言ってもいいか?」
「ダメに決まってんじゃん! 何言ってんの。良いんだったら、風間さんとこうして二人で話してないって」
「だろ。人が悩んでいることを他の人に言いふらすのは良くないことなんだ。本人が不快な思いをするようなことを話せないよ」
キキはそこでハッとし、それ以上は聞くような素振りは見せなかった。
自分のことに置き換えて、ようやく分かることもある。
誰かれ構わず人の悩みを言いふらすような人間になりたくないし、その考えをキキも分かってくれるだろう。
「……私の悩み、どうしたらいいかな。本当はあんまり怒りたくないの。空気も悪くなるしさ」
「感情を抑えるのは難しいし、こうやった方がいいって方法、俺も知らないな」
「感情を抑えるか……これまで感情のまま生きて来たから絶対に無理。アイドルになりたいって全力で走り続けて、そしてこれからも走って行く」
「それがキキの良いところだよ」
「悪いところでもあるけどね」
ようやく笑うキキ。
少し気が晴れたのか、深い嘆息を吐き出す。
「これからも怒ることは多々あると思うけど……よろしくね、風間さん」
「ああ」
笑みを浮かべるキキは美しく、夜景の所為かいつもよりも魅力が増しているような気がした。
アイドルをしているだけのことはやはりあるな。
リアラは言うまでも無いが、ゼログラビティのメンバーは全員優れた容姿をしている。
この子たちが売れるよう応援しつつ、悩みを解決してやりたいな。
そういうことが出来る人間に、俺はなりたい。
俺もまだまだ努力をしていかなければ。
彼女たちと共に成長していこう。
それがきっと、ゼログラビティのためになるはずだから。
「怒りそうになったら俺が止めた方がいいか? もし感情的になったら、仲裁に入った方がいいならそうするけど」
「でも止まれるかどうか……そこが悩みであって」
「じゃあ、怒りそうな時は自分を抑えるように深呼吸したらどうだ。落ち着くことができたら、怒ることもないだろ」
「そうだね。やってみるよ。上手くいくかどうかは別として。風間さんを思い出して深呼吸する」
「なら俺が声をかけるから思い出してくれ。深呼吸しなきゃって」
「分かった」
頭に血が上った状態を抑えることができたら、怒鳴ることは無くなる。
それは難しいことかもしれないが、でも試してみる価値はあるだろう。
キキは少しスッキリした顔をして、夜景に視線を戻す。
俺は彼女の横顔を眺め、フッと笑うのであった。
「ん?」
キキの横顔。
その向こうに見知った美女の姿が見える。
リアラだ。
リアラが何故か展望デッキにいる。
まさか俺たちを追いかけてきたのか……俺は呆れ、嘆息を漏らして彼女の方へと近づい行く。
「リアラ、どうしてここに」
「車の居場所が分かるように仕掛けをしておいたから」
「なんて恐ろしいことを……」
いつでも俺がどこを移動しているのか分かるように、GPSか何かを車に仕掛けたようだ。
彼女の手にする携帯には車の位置を示す地図が表示されている。
「そんなことしたらダメだろ」
「でもお兄ちゃんが常にどこにいるか知りたいもん。それにズルい! こんな夜景を二人で見るなんて……リアラもお兄ちゃんとこんなところで景色を眺めて、プロポーズされたい!」
「プロポーズはしてないだろ! キキが夜景を見たいって言ったから連れてきただけだ」
「ううう……お兄ちゃんと最初に夜景を見るのも私だったはずなのに……」
初めて夜景を一緒に見たのがキキというのが許せない様子。
俺は呆れきって苦笑いを浮かべ、リアラの頭に手を置く。
「まだ行ったことない場所はいくらでもあるから、一緒に行こう。な」
「お兄ちゃんんんんんんんんんんんんんんんんん! しゅき! 大しゅき!」
デレデレした表情に変わるリアラの顔。
一緒に出かけるようなことを言っただけなのに、面白い反応をするな。
「でへへ……お兄ちゃんとデート……水族館、遊園地、それにホテル……」
妄想トリップをしているのか幸せそうな顔をするリアラ。
すると彼女に気づいてキキが近づいて来る。
「あれ、リアラじゃん。なんでこんなところに?」
「ああ。偶然通りかかったんだ」
「展望デッキに偶然通りかかることなんてある!?」
「あるからここにいるの。キキも来てたんだ」
「うん。風間さんに頼んで連れて来てもらってたんだ」
一瞬で普段のリアラに戻り、キキとそんな会話を始めてしまった。
あまりの変化の早さに俺は笑うばかりで、美女二人の会話に耳を傾ける。
これから世界を取るであろうメンバーの二人。
悩みも次々に出て来るだろうし、サポートをしていかないとな。
キキのこと、そしてリアラの恐ろしさを知ったような、そんな夜であった。
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