【最哀】

 涙が止まらなかった。


「ヒノエ」という人は

 どこまでもどこまでも

 届かないのだ…。


 居なくなってわかる

 その大きさ

 その存在の大きさ


 器の広さ


 まじまじと思い知らされる

 格の違い


 矮小な私にすら

 愛情を忘れないでくれていた。


 自分を責めていたなんて

 自分が悪いと思っていたなんて


「そんなこと…」


 あるわけないのに…


 何故そんなにも優しいのか

 何故そんなにも美しいのか


 姉さん…


 呼び掛けても

 もう二度と

 返事が返ってくることはない


「桔梗」


 あの柔らかな声で

 私を呼ぶ人は居ない


 ああなんてなんて


 愛しいのだろう…


 大きな大きな代償


 この想いを止めず

 欲望に身を委ね

 快楽に溺れた代償が


 このような形ならば

 もう立ち止まらない

 もう後戻りしない


 地獄に落ちる日まで


 この想いを遂げてみせよう

 それが手向けならば


 浅ましくあれ

 卑しくあれ

 強かであれ


 月が照らそう


 これからは月が


 悲しみの淵にある中で

 私はゆっくりと

 あの人の唇を奪った。


 ゆっくりと押し倒し

 抵抗する間もなく

 深い口付けへと変える。


 器用に片手で

 衣服を乱しながら

 もう片方で

 相手の情欲を滾らせる。


 逃がさない…

 絶対に逃がさない…


 熱く滾る性を味わうように

 頬張りながら


 生々しい水音を響かせる。


「桔梗…」


 名を呼ばれ

 上目に相手へ視線を送る。


 小刻みに頭を揺らし

 絶え間なく水音を響かせ

 いつしか解き放たれた精を

 自らの口で受け止める。


 ゆっくりと

 それを飲み込みながら

 再び口付けを交わす。


 脈動する精の味を

 共有するように


 深く深く

 口付けを交わしていく…。

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