【日向】

「姉さん、本日は誠におめでとうございます」


 よくある定型文。

 よくある言葉。

 それを私は私を追いかけてきてくれた姉へと向けた。


「ごめんなさい、少し体調が優れず不躾な対応をしてしまいました。お傍でずっとお祝いしていればよかったのに」


 ああ…心にも無いことを

 よくもまあ淡々と

 我ながら情けない…。


「良いのよ。貴女は私よりも激務だもの。わざわざ来てくれただけでも嬉しいのよ。浮かない顔をしていたから無理をさせていたんじゃないのかと心配で」


 ああ…どこまでも…

 この人はどこまでも優しい

 暖かい…

 嘘や方便ではないこの人は


 紛れもなく太陽なのだ。


 ダメだ。

 今日はダメだ…。

 このまま照らされてしまったら

 影が…見たくない知りたくない

 自覚したくない…。


「すみません姉さん。今宵はこのままお暇します。本当はお手伝いなどもしなければならないのに」


「いいのよ。ゆっくり休んで。何かあれば呼んでね、すぐに駆けつけるわ。貴女は私の最愛の妹なんですもの」


 どこまでもどこまでも

 優しい貴女…


 まざまざと思い知らされる

 勝てないのだと


 唯一勝てるかもしれないと思ったものでさえも

 最後にはこの人を選んでしまう。


「香澄」


 なんて尊くて

 なんて美しくて

 なんて愛しくて


 なんてなんて


 大きな名前なんだろうか…。

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