【月蝕】
(今日は新月か)
ふと誰かが漏らした言葉。
些細なことだ、何のことは無いただの雑談。
だが何故か胸にささくれが出来たのだ…。
新月…。
月の出ない、月が消える日。
月が必要ない夜…。
宴会は終わらない。
火は炊かれ、騒ぎは止まず
月明かりがないことすら苦にならないほど…。
里が照らされている。
そう…今日の主役は太陽
そしてそれを護る盾であり刃
その二つが交わって更に里は栄える。
そんな栄えある日に月の有り無しなど
どうでもいいのだろう。
(なんて…)
なんて醜い
あの横に
あの傍に
あの声に
あの腕に
あの身体に…
なんてなんて醜いのだろうか
最愛の姉の晴れの日に
最愛の彼の晴れの日に
ああ…新月か…
月が黒い雲に覆われて
笑えない、祝えない…。
浅ましい
おぞましい
「お酒が美味しくない…」
誰からだったろうか
いつからだろうか
宴会も終わり
皆が帰路につき灯りが消え始めた頃
ふととある場所を見つめていた。
「桔梗」
私の半身
私の最愛の家族
誰よりも愛しく
誰よりも大切な私の
家族
「少し見てまいりますね」
あの人、いえ旦那様にそう告げて
あの子がいた場所へおもむろに駆け出していた。
「桔梗」
誰よりも口にしたその名を
今日も同じように口にする
次期里長の妻としてでも
里の中の象徴としてでもなく
あの子の姉として…。
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