第1話

 駐車場、だろうか、だだっ広い広場だ。

 気が付けば、そんな広い空き地にポツンとこの車が一台停まっている。

 エンジンが掛かりっぱなしで、アイドリング状態で止まっていた。

 まだ周りは暗い。


 さっきまでの記憶を辿る。

 確かストーカー野郎の襲撃に会い、谷底へ落ちたはず。

 どうやら、頭から血を流した程度で、深刻な怪我はない様だ。

 それにしても、と。

 車外に出た。


 すると、赤ランプを点滅させながら近づいて来る物があった。

 なんだこいつら、と思った、警察、パトカーがサイレンを鳴らさず、赤色灯を点滅、回転させながらユルユルと、近寄ってきた。


 丁度良かった、怪我はないが、ストーカーの煽り運転で大事故になるところだった、そのことを通報して、逮捕なりなんなりしてもらおうと思ってパトカーに近づいた。


 近付いたが、中に乗っている警官はこっちを一瞥いちべつしたかと思うと、手に持っていた無線で何かしゃべって、また何ごとも無いように無視を決め込んでか、無線の周波数を見ているのか、無線相手の応答を待っているのか、身じろぎもせず、そこに留まっている状態だった。

 いいかげんイラっとした、こっちは額から血を流している、見るからに怪我人が、パトカーのドアをノックしているのに無視を決め込んでいる。


 今度は、握り拳で強めに窓を叩き、大声でドアの向こうにいるスンとした奴らに怒鳴った。

 中の警官はもう一度、こっちを見ると、ゆっくりした動作でドアを開け降りてきた。

 気が付けば、数台パトランプを点滅させながら、この駐車場、広場に砂利をタイヤが踏みしめる音が辺りに響くぐらいだ。


 降りてきた警官に向かって。


 こっちは、無事じゃねえんだからな。

 俺は。

 口火を切った。


 だが、降りてきた警官の顔を見て、ゾクッと背中に恐怖が走った。


 そいつらは。

 ぽっかり穴の空いた穴、そう表現するのが、正解の目。

 そのぽっかり空いた目がこちらを見ている。

 そう、眼球がないのにそう見える。

 となりの、警官は、帽子を突き破り角、そう角が生えている。


 それが無ければ。

 手に、バインダーを持っていつも、普段街角で、事故処理に勤しんでいるいつもの風景、交差点で交通整理をしている、その景色、と何ら変わらない。


 ミニパトが、続いて停車した。

 もっと驚いた。

 警官の制服の背中に羽根があった。


 続いて、スカートを履いた女性警官が降りてきた。

 後続のパトカーからも、数人降りてきた気配がした。


 羽根の生えた警官は、そう、降りるまではその存在がまるでわからない位の、折り畳まれた状態なのだろう。

 ドアを開け降りてきたと同時にその翼はおおきく、開き、1、2度羽ばたいたと思えば、辺りの警官の帽子が飛びそうになり、あわてて帽子にてをやり、スカートをはいている女性警官は、あわててスカートを押さえた。

 その時、俺はスカートの間から尻尾、蜥蜴のそれと全く同じものがあるのを見逃さなかった。



 オイオイ、と思いながら、ハロウィーンか?

 その仮装は取り締まる側が着てどうすんだ。

 と思いながら尋常じゃない状況に、後ずさりしながら、思考が追いつかない、偽警官か、コスプレにしちゃよくできてる、いや、一人二人で、しかも都会の真ん中でギャラリーがいるからするもんだろう。

 いやいや、そもそも警官がコスプレ?

 混乱した思考で、そう考えていると。


 一人のバインダーを持った警官が、肩に付けた無線に向かって、対象を補足しました、間違いありません、などと通信の向こうとやり取りが聞えた。


 対象ってなんだ、補足って。

 ハッとして、自分の愛車の方を見ると、ミニパトから降りてきた数人が俺の車を取り囲んでいる。

 そして一人が、俺の愛車に手をかけようとした時。

 俺は考えるより、体が反応した。

 自分の車に駆け寄り、ドアノブに手をかけているそいつに飛びかかった。

 てめえ、俺の愛車に気安く触るんじゃねェ。


 背中に大きく蹴りを入れ、怯んだすきに、もう一人の脛に蹴りを入れた。

 さすがに、スカートを履いている女性警官には、離れるよう軽く肩を押し、よろけさせた。

 もう一人の、反対側にいた警官に飛びかかろうとした時。


 瞬間だった。

 あの羽の生えていた警官が目の前に、割り込みスプレーのような物を俺に浴びせた、浴びたと同時に意識が遠のいた。



 やっと会えた。

 そう言った言葉が、耳朶に響いたのはあれからどれくらい経ったのだろうか。

 布団の上で、天井をぼんやり視界に納め、何気なく横を見ると、膝が見えた、正確に言うと着物の膝頭。


 やっと会えた。

 正座している膝頭が言った。

 いや違う。


 視線を少し上に向けると、どこかで見た事のあるような、それでいて初めて見る女性。


 頭には山羊の角の様に曲がった、そして真っ赤な瞳の虹彩は縦に割れ、猫の瞳のそれ、着物から出ている透きとおった白い肌、長い爪、コスプレにしては和風なのかどうなのか、判断に苦しむ格好と言わざる終えない。


 私はこの国の王女で、そなたを召喚した。

 申し訳ない、もっと説明がいるだろう。


 そなたに頼み事と、約束を果たしてもらうために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る