剣士に斬れぬモノはなし〜異界で千年修行した剣士、ファンタジー溢れる現代を刀一つで無双する〜

あおぞら@『無限再生』9月13日頃発売!

第1話 剣士は頂きの上に立つ

「——おお……外だ。いやまぁも四季あったから大して感動もしないけどさ」


 なんて言いつつもしっかり感動しちゃってる俺——村正むらまさ剣司けんしは、の現世の空気を肺いっぱいに吸い込む。

 現世の空気はあっちに比べて不純物が多いというか匂いが——


「——って、リミット解除したまんまだったわ。あぶねあぶね」


 慌てて目を瞑って己の深層に潜り——開け放たれた扉を閉めて施錠する。よし、これで大丈夫。


 因みに今俺が言っていたリミットというのは、人間が無意識下に設けている肉体的なリミットのことである。ほら、人間って本来の能力の二十パーから三十パーしか使えないとか言われるじゃん? 火事場の馬鹿力とか呼ばれるあれ。


 俺は千年に及ぶ剣の修行で、その火事場の馬鹿力を意識的に使う方法を会得したのである。最も会得するのは簡単ではなかったが。


「……千年って、よく考えたら意味分からん年月だよな」


 だって平安時代から現代までの時間だぞ。藤原道長の時代から生きてるってバケモン過ぎるだろ。


 じゃあ俺はバケモンじゃねーか……と自分の言葉で傷を負いながら、背後にある岩壁に隠されていた鳥居を眺める。


 鳥居は神社とかだと境界的な役割だって聞いたことあるが、この鳥居も我が家に代々伝わる修練のためだけの異界を隔てる境界としての役割を持つ。

 つまりこの世界にもファンタジー的なナニカがあるんだろう。知らんけど。


「あれってアニメとかラノベの中だけの話だと思ってたわ……なら神隠しも事実ってこと? うわぁ……怖すぎるだろ」


 俺は鳥居のある洞窟を抜け、我が家に帰りながら身体を震わせる。

 いやまぁ今の俺なら多分どうにでもなるんだろうけど、怖いモノは怖いのだ。お化け屋敷が作り物でも怖いのと一緒。


「……ま、考えるだけ無駄か。とっとと帰って母さんの飯食お」


 いやー、母さんの手料理も久し振りだなぁ……絶対美味いじゃん。妹にも久し振りに会えるし……あのキャンキャン五月蝿いのも少しは静かになったのかな?

 

 気分は有頂天。マザコンやらシスコンやら言われようと一向に構わない。千年はそんくらい長いってことだ。


 まぁ剣を極めるために千年修行した俺がアホなせいだけどさ。



 でも——後悔はしてない。



 これは俺の、俺だけの誓いだ。

 誰よりも優しく、誰よりも剣にひたむき——兄さんが目指した道で、死ぬ一ヶ月前に兄さんが俺に言ったこと。



『——剣司なら絶対届くよ。一緒に同じ景色、見ような。——もちろん兄ちゃんも頑張るからさ』


 

 だから決めた。誓った。

 あの世でも剣を振るってそうな兄さんとの約束を守るために。



 一年……いや二年前に交通事故で亡くなった兄さんに胸を張れるように——剣の道を極めることこそ、俺の誓い。

 


 ——ま、途中で俺も剣を極めるのが楽しくなったんだけどさ。ある程度まで日に日にステップアップしてるって分かったからね。俺が天才で良かった。いやマジで。


 俺は燦々と輝く太陽、晴れ渡る青空を見上げ——



 

「兄さん、まだまだ完璧とは言えないけどさ……辿り着いたよ——俺が思う剣の頂きに」




 空にいるだろう兄さんに届くように言った。



「だから、俺がそっちに行った時——一緒の景色を見ようぜ。俺もこれから更に頑張るから」












「——おかえりなさい、剣司。というか出てきた時は電話してって言ったでしょ」

「ただいま母さん。いや電話したじゃん俺」

「家に着く五分前の電話なんてしてないのと変わらないでしょうが!」


 家に帰った俺を迎えたのは——母さんの怒号だった。

 一応思い出して直ぐに電話したのだが、やはり五分前では駄目だったらしい。あっちから家まで電車で三時間掛かることを顧みれば当然だけど。


「あ、おかえりお兄ちゃん。一ヶ月で極めるって言ってたけど……一年掛かってるじゃん。あれれー? あの意気込みはどうしたのかなー? かなかな?」

「コイツ一年経ってるのに一切変わってねぇじゃねーか。少しは大人になれよ。もう高校生だろうが」


 そして次に俺を迎えたのは——妹、百合ゆりの煽りである。

 ツインテールを揺らしながらニタニタ顔を向けてくる。モデルでもないのにツインテールという中々痛い髪型してる生意気なヤツだ。


 ……つーか終わってんな、ウチの家族。百合はもちろん、母さんも怒るより先に少しは俺を労えよ。褒めろよ。こちとら千年だぞ。なんなら大学を休学してまで頑張ったんだぞ。


 なんて内心で文句を垂れるものの……俺のお顔は、いつも通りな二人の様子に笑みを隠せないでいた。

 

「うわぁ、馬鹿にされてるのにお兄ちゃんが笑ってる……キモっ」

「あんまり馬鹿にしてると兄ちゃん泣くぞ? 本気で泣くからな?」


 ただでさえ久し振りの再開で涙腺緩んでんだ。マジで一瞬だからな? ……あれ、視界がちょっとぼやけて……。


「うぅ……」

「ホントに泣いた!? ご、ごめんってお兄ちゃんっ! 悪かった、百合が悪かったから泣かないで!? ただ少し寂しかったから意地悪を……」

「全く……一年経ったのに二人とも変わらないわねぇ……」


 宣言通り恥も外聞もなくあっさり泣いた俺。

 あたふたと大慌てで俺に謝り倒す百合。


 そんな俺達を見て言葉とは裏腹に穏やかな笑みを浮かべた母さんが、パンッと手を叩いて言った。


「ほら剣司、良い加減泣き止みなさい。今日の晩御飯はアンタの好きな物を買ってあげるから」

「え、マジ!? じゃあじゃあ寿司! 回らない寿司行きたい!」

「切り替え早っ!? ……いや、お兄ちゃんはこんなもんだったね。焦って損した気分…………ま、まぁ、帰ってきてくれて嬉しくないことはないけど!」


 俺の家には、今日も変わらず日常が詰まっていた——。








 ——時間は戻り、剣司が鳥居から出て数分。


「——せ、先輩。み、見ましたか?」

「あ、あぁ……見たし、感じた。——アイツはヤベェ……汎ゆる面でヤベェぞ……!! 一年であんなバケモンみたいな気配になるのもそうだが、一瞬で!! おい、今直ぐ上に報告しろ!」

「は、はいっ!」


 ひっそりと、されど厳かに佇む鳥居——『剣神ノ鳥居』のある洞窟の入口兼出口を監視していたスーツ姿の三十代の男は、同じくスーツを着込んだボブの二十いかないくらいの女に命令を飛ばす。

 女は依然として戸惑いながらもなんとかスマホを取り出し、電話をかけ始めた。

 説明する女を横目に、男は顎に指を当てる。


(……あの場所は、俺ら『異能捜査課』が発見してから百年近く経っているが……あの青年——村正剣司以外誰も入れなかった……。分かっているのは——村正一族に関わりがあるっつーことだけ。だが、どれだけ調べてもどんな繋がりあるのか分からねぇし、一年前はあの青年もただの一般人。だが——)



 ——これからヤツを中心に波乱が巻き起こる。



 そんな予感に襲われると共に。





「——村正剣司……あの中で一体何があった……?」





 男は、今はいない剣司の姿を思い起こして呟くのだった。


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