追い焚き
見つめ合い、2人は長いキスをした。
自然に抱きしめる腕が強くなり、漏れる甘い声。
呼吸の合間に目が合って、認め合い、許し合い、ただ出会えた事に感謝する。
そんなキスだった。
抱き合っていたいが、まだ太陽が高すぎる気がして恥ずかしくなった天護は
ゆっくりつゆを起こして「こっちや」と、五右衛門風呂の裏にある薪窯へ案内する。
つゆは慣れない下駄で天護のあとを追う。
「もう沸いとるからそんなせっせとせんでいい、橙を呼ぶか?あいつは慣れとる。」
「大丈夫、たぶん。薪放り込めばいいんでしょう?」
「あんまり入れんでええ、儂を茹でたいのなら別やけどな?」
「そうですね、今日の夕飯は茹で天護様か…味付けは塩?醤油?それとも味噌…?」
「儂を食おうとするな(笑)」
「冗談ですよ(笑)さあ、入ってきてください。」
そう言って火の近くの小さい椅子に座り髪を解いて薪窯の熱気で乾かす。
しばらくすると毛深い巨体が洗体している音が聞こえ、石鹸のいい匂いが浴室上部の窓からふわりと流れてくる。
ざばん、と湯の音がした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「つゆ、おるか」
「いますよ。お湯、冷めてしまいました?」
「湯は丁度いい。いやな…こんなんええなって思ってな。」
「そうですね、またやりましょうね。」
「でもおまんは村に家があるんやろ…?」
「はい、あ、そうだった。弟と改装の打ち合わせしないと…」
「弟君が家を改装するのか?」
「うーん、まだ分からない。なんせ私の故郷からここは遠いから。」
「橙と蒼に手伝わせてやれ、あいつらは儂の世話ばかりで、最近飽きてきてる。」
「神様の使役を使うなんて出来ないですよ…お給料何で払ったらいいんですか…」
「気にすんな、あいつら人やないから。飯も食わんでいいし厠もいかん。でも風呂は時々入ってるらしいがな。橙は特に好きらしい。」
「…気になってたんですけど…何で出来てるんですか?使役って…紙人形とかなら湯に溶けそうだし…」
「なんじゃろな」
「しらないんですか?」
「自然から生まれた。気の集まりか、なんかそんなんじゃ。最初はふわふわしてて可愛かったんやが、毎日話しかけてたらあんなんなりよった。」
「なにそれ…神業ですね。」
「そうでもないぞ」
「そうなんですか?」
「あぁ、自然はそういうもんじゃ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
天護は風呂から上がると、
ブルブルと水を飛ばし、着流しを纏い出てくる。
「和服似合いますね…かっこいいです…」
「やめろ…お前もよお似合ってる」
「へへへ…」
そう言って、離れの縁側に座ると橙が茶を運んできた。
つゆは自分のスマホを見る、もちろん山奥深くにあるこの場所は、
圏外のためスマホは使えないが時々それを忘れてスマホを覗いてしまう。
「そんなもん見てないで、空を見ろ。秋晴れぞ、今日は綺麗や。」
「ほんと…綺麗ですね。」
隣同士に座り、山の音を聞いている2人。
人工的な音がなにもしない、するのは風と虫と鳥の音、風は少し冷たい。
2人でお茶を啜りながら「はー…」と感嘆のため息をついた瞬間、
「天ちゃあああああああああん」という叫び声がした。
この神社に来る神様はみんな叫ぶようだ。
「全く…誰も儂らを放っておいてくれん…」
「あれってもしかして…明智さん?じゃなくて…云壇様でしたっけ。」
云壇「あ…つゆちゃんいた。僕…これ、いまやばい?」
つゆ「もう知ってますよ、云壇様。」
云壇「なぁんだ、なら話が早いー♪」
天護と云壇はこの山々で生まれ、神格化されたいわば幼馴染のような…兄弟のような存在。会ったら口喧嘩ばかりするらしいが、基本的に橙と蒼しか話し相手がいない天護にとっては貴重な存在である。
天護「おまん暇なんか。あと、慣れなれしくつゆちゃんとかいうな。」
云壇「ちょっと!縁を結んであげたの僕なんだからね?感謝してよ!」
つゆ「一理あります、ぐっじょぶでした。云壇様。」
云壇「ありがとう、まあこれが縁結びの神の仕事よ♪」
天護「偉そうに。」
云壇「僕、偉いからね!」
天護「儂だって偉いわ!ここの村のみんなをだな…!」
云壇「みんなってそんなに残ってないじゃん!学校もなくなってさ!」
天護「しょうがないじゃろ!自然を護るためにじゃ!儂はここの人間も村も山も護らんといかんからの!」
云壇「だからって平均年齢65歳以上って!つゆちゃん1人来たくらいで平均下がらないからね!?」
天護「だからつゆちゃんって呼ぶな!それにお年寄りでもみんな元気やろが!まだみんな野良仕事しとるわ!」
いがみ合ってるのか、大好きなのかはたぶん本人たちにも分かってない。
でもたぶん互いに大好きなんだろう。
つゆと橙と蒼は3人でそれを見ながら
「はぁ…平和だなぁ」と言いながら茶を飲んでいる。
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