第2話:初めての給料日 ― 死亡手当1,500G ―

太郎の腐った心臓がドクンと鳴った翌朝。


控え室の蛍光灯は、いつもより明るく見えた。

「観覧車前……あそこなら演出判定入るはずだ」

鏡の前でピエロマスクを整えながら、太郎は小声でつぶやいた。


隣の新人ゾンビが話しかけてくる。

「おはようございます先輩! 今日こそ派手に散りましょうね!」

「……おう。今日は給料日になる気がする」


スピーカーが鳴る。

「ゾンビ労働者の皆さま、ご苦労様です!

 本日も気合と根性で美しく散り、プレイヤーに笑顔をお届けしましょう!

 それでは――Good death!」


「よし……行くか」


錆びたシャッターが開き、光の差し込む遊園地ステージ。

太郎はピエロ靴をドタドタ鳴らしながら観覧車の前に立つ。

プレイヤーの影が、ゆっくりと視界に入った。


「来た……! 今日こそ正式な“死”をもらう!」


その瞬間、爆音と閃光。

太郎の体は観覧車ごと吹き飛んだ。


――数分後、控え室。


「おめでとうございます! 死亡判定入りました!」


新人ゾンビの声に、太郎は呆然とした。

「……マジで? 俺、倒されたの……?」


給与明細を開く。

『死亡手当:1,500G』


「……出た。ついに給料、出た……!」


周囲のゾンビが拍手。

「やったな太郎!」「初給料おめでとう!」


太郎は感極まって天井を見上げた。

「ゾン菜……お前に新しい脳みそパズル買ってやるからな……!」


その瞬間、課長の声。

「太郎、お前の死に様、運営に褒められてたぞ。ただ――」

「た、ただ?」

「爆発が地味だ。バズらん。」


太郎は拳を握った。

「……次はバズってみせます、課長!」


机の上の燃料缶を手に取る。

「明日は……炎上ゾンビでいくか。」


――その頃、観覧車の裏側。


人気配信者・ルナ=エクリプスは、

深夜の編集室でモニターを前にうつ伏せていた。

白いヘッドホン、赤いネイル。


「ふぁ〜……今日もゾンビ狩りお疲れ私。あれ? このピエロ、なんかまた出てきてない?」


彼女のチャンネル『LunaGamesOnline』は登録者数二十万。

テンション高めの実況と、

独特の毒舌トークで人気急上昇中のストリーマーだ。


コメント欄が流れていく。

『また出たw』『こいつ動き人間くさくね?』『ピエロゾンビ草』


ルナは動画を一時停止して、太郎の姿をじっと見つめた。

「……AIゾンビじゃないの、これ。なんか、“気持ち”入ってる」


そして小さく笑う。

「明日の配信、3-Bステージにしよっか。もう一回、あのゾンビに会いに行く。」


――Good death、第二幕。

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