第6話 不届き者

ある日のこと、マンションの廊下は静まり返り、外の街灯が薄く光を落としていた。


結が鍵を差し込んだ瞬間、眉をわずかにひそめる。


「……鍵が浮いてる。触った跡があるね」


玲奈は一気に緊張し、小さく息をのむ。


「……先輩、中に“気配”があります」


二人は自然と杖を構えた。

結が低い声で指示を出す。


「開けたら私が前。玲奈は後方支援」


「はい」


そっと扉を押すと、暗い室内の奥で──カタッ、と物音。


影が揺れた瞬間、黒フードの男が窓方向へ走り出す。


「逃がしません!」


玲奈は杖を構え、青い光を放つ。

風の帯がしゅぱんと音を立て、男の腕へ絡みついた。


「なっ……!?」


同時に結が指を鳴らす。

紫の魔法陣が足元に浮かび、男の膝が崩れ落ちる。


「動くと転ぶよ」


背へ軽い衝撃を落とし、男は床へ押しつけられた。


玲奈が追加で光の拘束輪を展開し、手首にぱちんとはめる。


「先輩!拘束しました!」


「よし……部屋の中は?」


玲奈が見回して、小さく声を上げる。


「先輩……支局の備品、『魔力異常探知機』が……!」


結が男へ視線を落とす。


「これが目的?」


男は歯を食いしばるだけで黙り込む。

そのとき——


ブゥン……


窓の外を“何か”が飛び去る音がした。


「先輩、複数います!」


男が薄く笑った。


「もう渡した……遅ぇよ」


空気が瞬時に張り詰める。


「追うよ、玲奈!」


「はい!」


二人はマンションの外へ飛び出し、

屋上付近の影を確認するとすぐに杖を向けた。


「先輩。あいつらですね!部屋に入った不届き者は!」


「うん、間違いない」


「ここは……私に任せてください!」


玲奈が前に出て杖を構え、

逃走する黒い影へ風属性の弾を撃ち、地面に落とす。


バシュッ──!


強盗の一人が体勢を崩し、三人まとめて駐車場へ落ちてきた。


「なかなかやるね、玲奈」


「ま、まだまだですよ……先輩には全然追いつけませんけど……」


玲奈は照れながらも嬉しそうに笑う。


落下した強盗に近づき、玲奈が再び拘束魔法を展開する。


「先輩、三人とも拘束しました!」


「よし、支局に連れていこう」


そこへ、茶髪を一つに束ねた女性が駆けてくる。


「結ー! あ、いた。こっちで引き取るよ」


魔力犯罪調査部所属・雫(しずく)。

結の魔力保安学校の同期だ。


「雫。来てくれて助かった」


「任せて。こういうの専門だしね。

……ふむ、魔力痕跡も多い。あとで詳しく調べるよ」


雫は強盗達の拘束状態を確認し、部下に引き渡すと

くるっと結と玲奈へ振り返る。


「二人とも、もう帰っていいよ。続きはうちでやっとく」


「ありがと、雫」


「ありがとうございました!」


玲奈が深く頭を下げると、雫は目を細めて笑った。


「玲奈ちゃん、素直で可愛いねぇ……いい後輩持ったじゃん、結」


「はいはい、からかわない」


雫が調査車両へ戻り、赤色灯が遠ざかっていく。


夜風だけが残った。


「はぁぁ……今日めっちゃ濃かった……」


玲奈は大きく伸びをする。


「訓練して、事務して、帰ったら強盗って……新人の経験値じゃないよね」


「でも捕まえました!先輩、ちゃんと……!」


結は小さく笑う。


「玲奈、魔法の精度上がってる。今日の拘束、前よりずっと綺麗だったよ」


「えへ……!」


二人は部屋へ戻り、壊れた物を片付け、

ようやくソファへ腰を下ろした。


「……今日はお風呂入って寝よ。もう限界でしょ」


「はい……もう眠いです……先輩抱えてください……」


「甘えすぎ」


そう言いつつも、結は苦笑しながら玲奈を支えた。


静かな夜が、ようやく戻ってきた。


次回に続く....

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