第4話 ドキドキな記念日

 秋の週末。


 由香里先生は、学校の仕事を終えると、車で私を迎えに来てくれて、ドライブしながら、以前行けなかったショッピングモールへ甲斐もに出かけた。



「こんな明るい時間に、美樹ちゃんとデートできるなんて幸せっ! 今日はずっと一緒にいられるし!」



 由香里先生は、かなり喜んでいる。


 私も久しぶりのデートに、ドキドキして幸せだった。


 ひととおり、ショッピングモール内を歩き、買い物をして、途中のカフェで休憩を挟む。



「ねぇ、美樹ちゃん。私ね、気づいたことがあるのっ!」



 由香里先生が、なんだか神妙な表情で顔を寄せてくる。



「ん? なんですか?」


「私のカノジョが、1番可愛いってことに」


「……由香里先生、浮かれすぎですっ!」


「う、浮かれてないよっ! 本当にそう思ってるしぃ」



 由香里先生だって、店内にいる女性の中で、1番綺麗だし、かわいいですよ。


 そう言う私も、由香里先生以外の顔が目に入ってこないんだから、私も似たようなものかな。



◆◇◆◇



 目的地までの車の中。


 夕日に照らされて、由香里先生の黒髪が光る。



「ん? どうしたの?」



 気がつくと、私は由香里先生の横顔ばかり見つめていた。


 今日は、ずっとそんな感じ。



「なんでもありません♪」


「そう……♪」



 車に酔いやすい私のために、ゆっくりと丁寧に運転してくれる由香里先生の横顔は、いつも素敵だなと思う。


 助手席で、好きになった人の横顔を見続けられることは、本当に幸せだと思う。


 私のある提案で、由香里先生に相談して、星空を見るデートをお願いした。



 家族には、まだ先生との交際を明かしてないが、学校の女性教師も一緒ということで、あまり遅くならないのを条件に出かけることを承諾してくれた。



◆◇◆◇



 それほど知られてない星空が見える駐車場に車をとめ、車内で星空が輝く時間まで、のんびり待つことにした。



「美樹ちゃん、寒くない? これ、ホットココア。あったまるよ」


「ありがとうございますっ! いただきまーす♪」



 一口含むと、体の中心が、やんわりと温かくなる。


 アルコール運転は違反だからと、由香里先生もホットココアを楽しんでいる。



「あ、あの……由香里先生、コレ食べませんか?」



 私はショッピングモールで買ってきたケーキの箱を開けた。


 中には、イチゴが美味しそうなショートケーキが2つ。由香里先生の好みが分からないから、お揃いのケーキにしてみた。



「ケーキ? 今月は、美樹ちゃんの誕生日じゃないよね?」


「そうですねぇ……私は4月ですから。さて、なんでしょうか(笑)?」


「ま、待ってっ! 教えないでっ! 考えるからっ!」


「いいですよぉ。でも、早く由香里先生と食べたいから、出来るだけスピーディーにお願いします」



 おでこに指をつけて、うーんと悩んでいる由香里先生。


 あれこれ慌ててる姿も魅力的だけど、悩んでる顔も素敵だなぁ。でも、毎日忙しそうだから、分からないかもなぁ……。



「うーん……考えても分からないから、美樹ちゃん、車を降りて、後ろに来て」


「はい?」



 答えが分からないから、車を降りる? どうして、そういう流れになるの?


 私は、多少混乱しながらも、由香里先生の指示に従って、車を降りる。


 肌寒い夜気を感じるけど、寒いけどゴメンね、と由香里先生がコートを以前みたいに羽織らせてくれる。


 白い息を吐きながら、由香里先生が車のトランクを開ける。見ると、イベントみたいに包装された袋がひとつ。なんだろう?



「美樹ちゃんの答え……まさか、私が考えたことと一緒なんてね。美樹ちゃん、開けてみて」



 穏やかに微笑む由香里先生にうながされて、私は疑問符を何個も浮かべながら、袋の中身を取り出してみた。



「これって……」



 袋から出てきたのは、2匹の可愛いテディベアのぬいぐるみ。

ベアの胸元には、色違いでアルファベットの『Y』と『M』が刺繍されている。


 思わず、私が由香里先生を見上げると、先生はウインクして、答え合わせをする。



「カッコつけて、答えが違ってたら恥ずかしいけど……美樹ちゃんの質問の答えって、私達が付き合って、半年の記念日だと思う……」



 えっ? えっ? えぇっ!?



 私は、ちょっと混乱して、ベアと由香里先生を交互に見比べる。



「恥ずかしいけどね……美樹ちゃんに一目惚れしちゃってから、勢いで買っちゃったんだよね」


「勢いで買っちゃったって……私が高校に入学して? 由香里先生に返事する前にっっ?」


「うん……美樹ちゃんの気持ちを聞く前に、先走ったことをしちゃうなんて、今聞いても気持ち悪い……よねぇ? でもね、私にとったら、そのくらい本気で美樹ちゃんを好きになっちゃったから、失恋したとしても後悔しなかったよ」


「……バカ……」


「……え?」


「由香里先生のばぁぁぁかっ! 私が、真剣に返事しなかったら……」


「それでも、後悔しなかったよ」


「ウソですっ! 由香里先生、そういう性格じゃないくせにっ!」


「アハハ、バレてた(笑)。うん……美樹ちゃんの返事を聞くまで、ものすごく緊張してたし、断れたら、ショックでしばらく後悔してたかも」



 私も、由香里先生も、嬉しさで声が震えていた。



「半年記念日で……由香里先生に何買おうか迷ってて……テディベアって、困難を乗り越えて共に実を結ぶとか……自分だと思って、大切にしてほしいとかだったけど、意外と高かったから、買うの無理かなって……」


「美樹ちゃんがテディベアのこと、言いださないかって、ヒヤヒヤしてた(笑)」


「もぉっ、あんまり私をドキドキさせないでくださいっ!」


「美樹ちゃん、私と一緒に半年記念日を迎えてくれて、ありがとう。これからも、よろしくお願い……しちゃっていい……?」



 私は、由香里先生に抱きつき、先生の唇を奪うことで、返事にした。


 言葉でなんて、いくら言っても伝えきれない。


 寒空の下でも、2人の心は、とてもとても甘い熱を帯びていた。


 終わり。

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