第6話 言い伝えと神話

 世界は変わった。英雄が生まれ、死んだ日から。

 あの日、俺は親友を無くした。俺はビビって近づくことが出来なかったが、そのおかげで生き延びたのだろう。だが、あの時に英雄になっていたほうが良かったかもしれない。

 この地域にはある言い伝えがある。魔の山と呼ばれる北東の山には入っては行けないと。この村は東から北に向かっていくつかの山があり、南西は平野でその先は深い森。その中でも奥まって、渓谷に囲まれた北東の魔の山にだけは入ってはいけないと言われていた。もちろん他の山や森にも危険はある。だがそれは常識的なモノだ。クマやイノシシ、オオカミ、そして盗賊など。命の危険性はあるが、理解できるレベルだ。しかし、北東の山は理解できない恐怖があるらしい。まず、深い渓谷を越えて入ること自体が命がけだ。渓谷の渡れたとしても、山に入ることが出来ない。麓から先に行けないのだ。明らかに上に向かっているのに、いつの間にが山を下りて反対側に出ていたり、同じところをぐるぐる回ってしまったりと。子供や精神的に未熟なものが入ったという例があるが、真実かどうか分からないし、彼らの話す山の様子は正に魔の山、魔物どもであふれ、命からがら逃げて来たと。鬼や魔物が獣を喰らい、殺し合う、地獄のようなところだと。彼らは恐怖で心を閉じ、まともに会話も出来ないから、断片的にしか分からないし、あまりに非常識なので、猛獣に襲われた恐怖で幻想でも見たのだろうと。だが、彼らの見たという魔物は正に今、村を襲っている奴らと特徴は同じだ。魔物が山から下りて来たのだろう。そして、この魔物は、聖遺物をもとに書かれた神話に出てくる魔物と同じだ。

 神話からはいくつかの英雄談があり、その中でも、神の御業を学び、悪と対峙する、ハロウの物語と鉄の塊で空のかなたで戦うルルークの物語は誰もが知っている神話だ。聖遺跡からはハロウのマントや杖などが複数見つかっており、また、馬車ぐらいの鉄の塊も出て来たりしている。ただ、マントや杖はデザインは変わっているが、神の御業どころか、防寒の機能も劣っている布切れと壊れやすい棒であった。信者の中では、神の力が抜けて脆くなったのだと主張しているが、単に神話を模倣したものを埋めたのではと言うのが、大部分の人の見解だ。鉄の塊も、溶岩などが固まり溶けたあと、つまり自然物がたまたまそのような形になったのではと言われている。まあ、鉄の塊が、地を走るどころか、海を渡り、空を飛ぶなどおとぎ話にもならない。神話自体も、ほとんど解読出来ていない。部分的なものしか見つかってないこともあるが、言語の規則性が見られないため、創造で作られたものになる。だが、悪鬼、それ以上の魔物が現われるようなら、ハロウの御業やルルークの剣でもないと対抗できないのではと思っている。

 そして、俺は遠くない将来、小鬼や魔犬ではない、強力な魔物が現われると確信している。だから、時間さえあれば、この村の文献を漁り、対策を練っている。英雄でない俺は自分の出来ることやるしかない。

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