第10話 娘の事情

「便所へ行って、出すもの出してこい」

 レオニスはロゼにぶっきらぼうに言った。

 彼の言葉に眉をひそめた私はまだ人間、目の前のレオニスが分かっていない。

 彼はロゼの涙を見たくなかったし、彼女も見られたくはないだろう。

 ただ、私なら、その弱み付け込むようにきっと動くだろう。

 レオニスの言葉に促され、ロゼはこの部屋を離れた。

 その間、レオニスが紙を見ていた。

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「そもそも、誰からあの娘を護るの?あの娘に価値があるとは思えないけど」

 私は腕輪の侍女を呼びだしながら尋ねた。

 右手腕輪の辺りの光景が揺らぐ。そして私の眷属が侍女をして現れた。

 侍女は一礼すると無言で、私達の給仕を始める。

 レオニスは券を折りながら、その給仕を見ている。

「ヴェロニカ姐さんは、この侍女を身内と思っているのだろう?」

 すると侍女は、私が返事をする前に口を開いた。

「当然でございます。私はヴェロニカ様の為に命を捧げる覚悟がございます。あの娘は果たして貴方様に命を捧げますでしょう…」

 侍女が言い終わる寸前、ヴェロニカの右手が侍女に向かって一閃する。

 侍女は、壁の近くまで吹っ飛ぶと腕輪に戻り、そのまま転がって扉の近くの壁にぶつかって止まった。

「主の会話に口を挟むな!」

 私は思わず唸ってしまっていた。

「とにかく、感情が出やすい相手というわけだ」

 レオニスは、怖いねと平然とした顔で私に言ってのける。

「私の親戚というのを、庁舎で言ったからな」

 腕輪に戻った侍女の注いだワインを少し舐めた。

「別にロゼに手を出したわけじゃないでしょ?」

「ああ、これは白だ」

 その返事を理解するのに、少し時間がかかった。

「くだらないことを言うのね」

「その言葉、そのまま返そうか」

 そう言って白ワインを彼は飲み干した。

「とにかく、あいつと私との関係が必要以上に公になった」

 私の白ワインの件で、頭が少し混乱してしまった。

 それが収まるのを待つかのように、レオニスは手酌でワインを注いだ。

 そんな無作法をさせた自分に腹が立った。

 ここは素直に謝罪しかないのだけど、それができない。

 それに、人のくせに……いやそれは言うまい。いずれ同じ土俵で悔しがらせてあげる。

「実際、ルクスディオン家というのは、私や父の弱点でもある」

 こうやって、弱点を私に教えるのも、気に入らない。

 普通なら、弱点を突くのは私にとって正攻法…なのだが、それを使ったらこの男は私を蔑むだけだ。こうやって私の攻撃箇所を潰すのが、眼の前の色男レオニス・ディオンなのよ。

「私は、こう言っちゃなんだが、ヤリ手の副都市長様だ。だから、良い意味でも悪い意味でも、お近づきになりたい連中が多いってことさ」

 一見、お調子者に見えるが、そうではない。そうでなければ私は自分も許せない。

「……あいつを落とせば、私を脅せると思っている連中が、この水龍祭にも多数来るって話だ。実際そういう話を聞いている」


 もういい、とりあえず今は、彼が私に伝えたい事だけを考える。

「夜はここで、娼婦達に紛れさせる。それはわかるけど昼間はどうするの?」

 昼間は、娼婦達にとって、大半が就寝時間だもの。

 確かに館内のいれば安全かもしれないけど、そうは考えていないのも分かる。

 レオニスは少し考えてから言った。

「思い付きなんだが、ハーディを水龍の巫女の候補として、逆に目立たせる。手出しがしづらいようにね」

 水龍の巫女というのは、水龍祭で選ばれるこの都市の親善大使みたいなもの。

 普通3名が選ばれるけど、最初の候補として20名くらいピックアップされるらしい。その候補の一人に、ロゼをレオニスがねじ込むという事らしい。

「副都市長の強権ってわけね」

 私が、そう言うと、ロゼって案外可愛いだろ?身体はこれからだけどと笑う。

「一応、水龍祭に来ている娘から数人選ぶ枠があるんだよ」

 なるほど、ちゃんと考えているわけね。それでも一つ穴を見つけた。

「でも、それだと、あの娘を一人で祭に行かせる事にならない?それって危ないでしょ」

 少し言い返せた気がして嬉しいけど、冷めた感じで指摘する。

「だからだ。適当に護衛を付けて欲しいんだ」

 憎たらしい、どうやら想定済みだったらしい。

「うちの女の子付けたら、ロゼよりモテそうだけど」

 昼間は、寝ているのを承知で言ってみたが、そもそも神属性にはならない事に気が付いた。

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