第16話 移動手段は
ソルスは眉根を寄せて少し上を見た。
そして軽くうなずいた。
どうやら一応納得したようだ。
俺は一歩前に足を出すと身体を折って前かがみとなり、タクシーの中に身体を滑り込ませた。
そして後部座席の奥の方へと移動しながら、前部座席の後背に設置されたテレビ画面に驚愕した。
凄いな。こんなに小さなテレビがついているのか。二十年……いや四十年の月日の流れを否応にも感じざるを得ない。
そんな俺の一連の動きを、ソルスはじっと凝視していた。
そして俺が座り位置を決めたところで、ソルスも乗り込んできた。
ソルスは窮屈そうに身体を折り曲げるも、なんとか乗り込むことに成功した。
「ずいぶんと乗りにくいのだな」
「すぐに慣れるさ」
俺は横のソルスにそう言うと、前を向いて運転手に向かって言った。
「とりあえずこの道を真っすぐで」
「かしこまりました」
実直そうな運転手はそう言うと、自動ドアを閉めようと右手で座席の下にあるレバーを手前に引いた。
あ、そうだ。
「おい、ドア閉まるから足を挟まれないように気をつけろ」
俺の注意にソルスは素早く反応して、ドア下の敷居部に置いていた左足をサッと右横にずらした。
運転手が後部座席を覗き込み、心配そうに言った。
「お客さん大丈夫ですか?」
ソルスに代わり、俺が返事をする。
「ああ、大丈夫」
「そうですか。そちら様は外国の方ですか?」
ああ、確かに。ソルスの顔立ちは北欧系のそれだ。
「そう。日本のタクシーの自動ドアに、まだ慣れてなくてね」
「そうでしたか。気が付きませんで申し訳ありませんでした」
「いや大丈夫。問題なかったんで」
「そうですか。それでは出発いたしますね」
「よろしく」
俺が言い終えるなり、タクシーは静かに発進した。
一連のやり取りを興味深そうに観察していたソルスが、怪訝な顔をして俺に言った。
「どういうことだ?」
「あとで説明する。それよりこの道を真っ直ぐでいいんだな?」
「ああ。残留思念はこの道の上にある」
「てことは、犯人も車を使ったってことか。多分俺たちと同じくタクシーだな」
「そうなのか」
「おそらくな。犯人が自分の車を持っていた可能性はあるが、それだと計画的犯行ということになる。だけど被害者の話を聞くに、殺害現場には偶然入り込んでしまったみたいだし、その可能性は低いだろう」
「そうだとして、タクシーだと何か違うのか」
「金がかかる。タクシーは便利だが、少し割高なんだよ。だから、おそらく途中で乗り換えたんじゃないかと思う」
「何に?」
「それはあとのお楽しみだ。とにかくお前は残留思念を見逃さないようにしてくれ」
「ふむ、いいだろう。楽しみにしていることにしよう」
ソルスはそう言うと、にやりと涼やかな笑みを口元に浮かべた。
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