第15話 タクシーと自動ドア
そしてその男の姿を見て、俺のニヤニヤ顔が途端に引きつった。
「なんだお前、その恰好」
ソルスは、若頭と呼ばれた男と寸分たがわぬ恰好をしていた。
「
「それはわかるが、どうみたってそれじゃあヤクザだぜ」
「ヤクザとはなんだ?」
「今のやつらのことだよ。非合法組織の連中さ」
「ふむ、非合法か。それなら問題ないな」
「いやあるだろ!」
ソルスはにやりと口の端を上げた。
「法などというものは人間が作り出した方便だろう。俺はその
確かにな。こいつに人間の法なんて通じるわけがない。だって死神だもの。
「まあいい。運よく金も手に入ったことだし、行くとするか」
「車とやらを手に入れるのか」
「いや、車を買うとなると、さすがにこの金じゃ足りない」
「ではどうする」
「タクシーに乗る。まあ、車を運転手付きで借りるようなものだ」
「それなら馬車とあまり変わらんな」
ソルスがつまらなそうに言った。
俺はにやりと微笑んだ。
「車をなめんなよ。馬車とは違うのだよ。馬車とは」
「どう違うのだ」
俺は顎を上げ、ソルスを見下ろすようにして言った。
「乗ればわかるさ」
俺たちは残留思念を追ってしばらく歩き、大通りへと出た。
さすがに大通りともなると、明け方とはいえ人の通りも車の行き来もあった。
「ほう、確かにあの箱が動いているな。それに確かに馬車よりだいぶ速いぞ」
ソルスが感心したように言った。
俺としては車に乗ってからのソルスのリアクションを見てみたかったが、タクシーを拾うのならば乗る前に他の車を見てしまうのも道理だと思い、諦めた。
俺はしばらくの間、目の前を行き交う数台の車を見送った後、大通りの向こうからやってくる屋根の上にプラスチック製の黄色い行燈を掲げた一台の車に目を留めた。
「来たぞ。あれがタクシーだ」
俺はソルスに向かってそう言うと、素早く左手を高く掲げた。
ソルスは眉根をギュッと寄せて俺の行動を見つめる。
「何をしている」
「タクシーはこうやって手を上げて止めるんだ」
「ほう、そうか」
ソルスが俺と同じように左手を高々と挙げた。
「いや、何も二人でやることはない。ひとりだけで充分だ」
だがソルスが上げた手を下げようとする気配は一向になかった。
こいつ意外と好奇心旺盛なんだよな。死神のくせに。
俺は仕方なく左手を下ろした。
タクシーはソルスが上げた左手を確認したようで、ゆっくりと減速しはじめるとスーッと滑るように俺たちの横に来て止まった。
と、次の瞬間タクシーの後部座席のドアが、接着部分の固くくっついたゴム同士が外れる大きな音を立てたかと思うと、そこからはとても静かに自動で大きく開いた。
ソルスは目を見張った。
ふふん。俺は得意げに説明した。
「自動ドアだ。凄いだろ」
「魔法か?」
「違う。科学の力だ。あっちの世界にも一応あるだろ。ただこちらの世界はその科学が段違いに発展しているんだよ」
「ほう、そうなのか」
「その代わり、魔法はない」
ソルスが驚きの表情を浮かべる。
俺は予想通りの反応に、口の端を上げた。
「びっくりだろ。だが魔法がない代わりに科学が凄まじく発展していると思えばいいさ」
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