タイムトラベラーの森

第6話 森の中のクレオパトラ

城下町を抜けた先の森は、さわやかに広がっていた。

たからかに聳え立つ木々は、小鳥を呼び寄せ、生命を生み出している。

奇妙にも足元の水からは柔らかな草が生えていて、この世のものではないようなふみ心地だ。

「この森には都市伝説があってだな」

青年が私の少し先を歩きながら振り返った。

うーん、やっぱうさぎの方が似合ってるんだよなぁ…。

「ちょくちょく、タイムトラベラーが沸く」

「未来人とかってこと?」

「そうだ。過去のやつも来るらしい」

面白そうだ。

「へぇ、そーなんだ──ってうわぁっ!」

下を見ずに歩いていたらため、木の根っこにつまずき、転んでしまった。

ぱっしゃん。

そのはずみで、くるり、と『6^6』が一回転して地面の中に戻っていった。

「何やってんだ────ってうわっ!」

青年も下を見ていなかったらしく、私よりもオーバーリアクションでころんだ。

「間抜けだね、青年」

「お前だって転んだだろう」

それは、そうだけど。

「私の方が綺麗に着地してたよ」

「…」

ぽちゃん。

青年の髪に引っかかっていた『090』が落ちた。

「あのさ、思うんだけど」

「なんだ?」

青年は疑わしげに眉を上げた。

そんな反応しなくたっていいじゃん。

「そろそろ、仲間増えるよね。ストーリー的に」

「は?」

勘の悪いヤツだ。

「魔法少女の仲間だって」

「ストーリーってか、ここは電卓界。ストーリーは存在しない」

えー、でも、明らかにテンプレにはのってるくない?

わざわざ目を合わせると、青年は気まずそうに目を逸らした。

「まぁ、増えるには増える。お前の変身道具が新たな仲間を引き寄せる。お前の変身道具がこの世界のテンプレと思ってもらっていい」

ほら。

テンプレって言っちゃってるじゃん。

「ほら、来たぞ。お前の仲間だ。勧誘、魔道具の発生までがお前の仕事だ」

なぜか投げやりになっている青年は、森の奥の人影をさした。

ん?勧誘?

……誰か、居る。

さわやかな森の奥、怪しげに動く影。

その人が歩いてくるたびに、シャリン…シャリン…と涼しい音が鳴った。

あの人が仲間なの?!てか、ネタバレしてない?

「汝、名を述べよ」

黒い影は、すっとこちらに手を差し出してきた。

ぼやぼやと、黒い影の全貌が明らかになった。

シャープなラインのボブカット。

きつい吊り目に、頭には金に輝くティアラ。

手首には金の大小の輪が3つあり、その輪がシャラシャラと音を立てている原因だ。

腰のラインにピッタリと沿った白い絹のドレス。

なかなかの美人で、驚くばかりに目が大きい。

「あえ…」

これが、噂のタイムトラベラーだろうか。

服装が古代っぽいけれど、神話の時代風でもない。

「古代エジプトだな…」

青年が呟く。

ていうか、どうしよう。

名前ないし…。

「こいつはエルフ。俺はタクヤだ」

口をまごつかせていた私に代わって青年が名乗り出た。

勝手に言うなよ……、エルフではあるけども。

「エルフ…こいつは確かにエルフだが。汝、名を述べよ」

汝ってなに、なんじって。

「私、名前がなくてですね、えっと…」

「汝、名を持たぬのか。なら、構わぬ」

え?

すっ…余韻を響かせながら少女が私の肩に手を置いた。

身長はそんなに変わらない。

10代後半のようだ。

次の瞬間、黄色い声が私の耳を震わせた。

「なんとかわいい生命体っ!大人びているのにも関わらず小さくかわいい!わらわの好みど真ん中じゃ!」

はっ?この人、どうしたんですか。

かわいいって私のこと?

がばっと少女の腕が開き、私を抱きしめた。

「エルフの長寿はこんな奇跡まで生むのか!わらわ、こやつをしもべにしたいほどに興奮しておるぞ!未来に飛ぶのも悪くはない」

シャランシャラン!

さわやかな森に金属音がこだました。

もしかして…ロリコンですか。

久々に人の体温を感じた。

なんかこのひと、いい匂いするなぁ…。

「ちょっと」

少女と私を青年が引き剥がした。

「そっちも名乗ってください」

後ろに『5555…』と数字が浮かんでいる。

『ゴゴゴゴ…』ってこと?

それにしてもすごい剣幕だ。

せっかくのイケメン顔に皺が寄っている。

なんでそんなに怒っているんだろう。

「わらわの名か?わらわの名はアサリ・時雨シグレ。時雨と呼んでくれ」

アサリシグレ…?

1音1音が麗しい少女だ。

ていうか、この人を仲間にするんだっけ?

「グオオォォ…」

いつの間にか暗くなり始めていた森の奥。

耳障りとも言える唸り声。

仲間発生イベントが!!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る