憎悪の成績表 ~合格のために、誰かを憎め~
ソコニ
第1話 憎悪の成績表~合格のために、誰かを憎め~
※この作品には以下の表現が含まれます。
・心理的虐待・いじめの描写
・自殺を示唆する表現
・教育における倫理的問題の提起
苦手な方はご注意ください。
第一章 契約——それぞれの絶望
私立錦ヶ丘学園の図書室に集まった五人は、互いに目を合わせなかった。十月の終わり、窓の外では銀杏の葉が黄色く染まり始めている。
田代は医学部志望だが、数学の偏差値が四十二。父は開業医で、息子が跡を継ぐことを疑っていない。だが田代は数式を見るたび、文字が蠢いて見える。計算ミスを繰り返すたび、父の失望した目が脳裏に焼きつく。
柏木は早稲田の政経を目指すが、英語が壊滅的だ。両親は昨年離婚調停中で、母親は「あんたが合格すれば、お父さんも認めてくれる」と毎晩言う。柏木は英単語帳を開くたび、ページが涙で滲む。
真中は地方国立の教育学部志望。教師になりたいと言うと、クラスメイトは笑った。「お前みたいな暗いやつが?」真中は人と話すのが苦手で、模試の面接練習では必ず泣いてしまう。
沢村は推薦入試で内定していたが、部活の後輩との揉め事で取り消された。殴ったわけではない。ただ、後輩が自分を「無能な先輩」と言うのを聞いて、ロッカーを蹴った。それだけで人生が変わった。
そして倉持。彼女だけは窓の外を見ていた。志望校は私立大学の文学部。成績は五人の中で最も低い。だが彼女の顔には、諦めも焦りもなかった。ただ、何かを待っているような——そんな表情だった。
扉が開いた。
入ってきた女性は、黒いスーツに身を包んでいた。三十代半ば。髪を後ろで束ね、口紅は血のように赤い。
「私は水無瀬といいます。今日から三ヶ月間、あなた方の家庭教師を務めます」
声は低く、よく通る。五人は顔を見合わせた。
「誰も呼んでないんですけど」柏木が言った。
「あなた方の保護者です。共同で契約金を支払いました。百五十万円」
田代が息を呑んだ。
水無瀬は机の上に五枚の成績表を並べた。
「田代くん、偏差値四十二。柏木さん、英語の平均点三十五点。真中さん、面接で毎回落涙。沢村くん、推薦取り消しで一般入試への切り替えが間に合わない。倉持さん、全科目で平均以下」
誰も反論できなかった。
「このままでは全員不合格です。でも私には、三ヶ月で全員を合格させる方法があります」
倉持が初めて口を開いた。
「どんな方法?」
水無瀬は五人を順番に見た。その目は、まるで標本を観察するようだった。
「誰か一人を、全員で憎んでください」
空気が凍った。
「毎週月曜日、くじ引きで一人を選びます。その週、選ばれた人間は『憎悪対象』となります。他の四人は、その人を徹底的に否定し、軽蔑し、憎んでください。言葉で、態度で、すべてで」
田代が立ち上がった。
「ふざけんな! そんなの——」
「座りなさい、田代くん」
水無瀬の声に、田代の膝が震えた。彼は自分でも理解できない恐怖を感じて、椅子に座った。
「憎悪はエネルギーです。人間の脳は、誰かを見下すことで自己肯定感を得るようにできています。ストレスホルモンであるコルチゾールは、適度に分泌されると集中力を高めます。そして——」
水無瀬は一枚の論文コピーを取り出した。
「サフォルニア大学の研究です。『他者への攻撃性が学習効率に与える影響』。被験者を二群に分け、一方には『自分より劣った存在』を意識させながら学習させた。結果、その群の記憶定着率は三十二パーセント向上しました」
真中が震える声で言った。
「でも、それって……倫理的に——」
「倫理?」水無瀬は冷たく笑った。「あなた方は今、倫理を語れる立場ですか? 不合格になれば、親は失望し、あなた方は自分を責め、人生の選択肢は狭まる。それが現実です。私は現実的な解決策を提示しているだけです」
柏木が訊いた。
「断ったら?」
「どうぞ。ただし、契約金百五十万円は保護者が既に支払っています。解約の場合、受益者であるあなた方が返金します。一人当たり三十万円です」
沢村が呟いた。
「……払えるわけない」
「では、始めましょう」
水無瀬は小さな箱を取り出した。中には五枚の紙片が入っている。
「最初のくじ引きをします」
第二章 倉持の一週間——憎まれることの発見
くじを引いたのは倉持だった。
彼女は紙片を見て、小さく息を吐いた。それは安堵にも、諦めにも聞こえた。
「今週の対象は倉持さんです」水無瀬が告げる。「ルールは三つ。一つ、物理的な暴力は禁止。二つ、学校外では接触しない。三つ——憎悪を演技だと思わないこと」
田代が訊いた。
「演技じゃなかったら、何なんですか」
「訓練です。人間の感情は反復によって定着します。一週間憎み続ければ、それは本物の感情になります」
水無瀬は机に五枚の千円札を並べた。
「毎日、小テストを行います。今週最も成績が伸びた者に、この五千円を差し上げます。当然、倉持さんは対象外です」
倉持は何も言わなかった。
翌日、月曜日の朝。
田代は教室で倉持の席を見つけた。彼女はいつものように窓際に座り、文庫本を読んでいる。
田代は近づいた。自分の足音が、やけに大きく聞こえた。
「おい、倉持」
彼女は顔を上げた。その目には何の感情もなかった。
「昨日の模試、お前カンニングしただろ」
「してない」
「嘘つけ。お前の頭でこの点数が取れるわけない」
倉持は本を閉じた。
「じゃあ、証拠は?」
「証拠? お前の存在自体が証拠だよ。お前みたいなやつが、まともに点数取れるわけない」
田代は自分の声が震えているのに気づいた。これは演技ではない。何かが、自分の中で本当に動いている。
倉持は立ち上がった。
「そう。私は、あなたの言う通りのクズです」
彼女はそう言って、教室を出て行った。
田代は自分の手が震えているのに気づいた。それは罪悪感ではなく——高揚感だった。
昼休み。購買に向かう倉持の後ろを、柏木と真中が歩いた。
「ねえ真中、倉持って何で生きてるんだろうね」
柏木の声は、わざと大きかった。倉持に聞こえるように。
「さあ……でも、価値はないよね」
真中は自分の言葉に驚いた。こんなこと、普段なら絶対に言わない。でも口から出てしまった。そして——言った瞬間、不思議な解放感があった。
倉持は立ち止まらなかった。ただ、その背中は少しだけ丸まって見えた。
柏木は真中を見た。
「ねえ、私たち……今、何してるんだろう」
「わかんない」真中は俯いた。「でも、止められない」
放課後、図書室。水無瀬が五人を集めた。
「今日の小テストの結果です」
彼女は紙を配った。田代の数学の点数は、昨日より二十点上がっていた。
「田代くん、素晴らしい。今日の一位です」
田代は五千円を受け取った。その紙幣を握りしめると、手のひらに汗が滲んだ。
水無瀬が訊いた。
「田代くん、今日はどんな気分でしたか」
「……わかりません」
「正直に」
田代は俯いた。
「……すっきりしました。頭が、いつもより冴えてた」
「そうでしょう。それが憎悪の力です。倉持さんを踏み台にすることで、あなたは自分の位置を確認できた。それが集中力を生んだんです」
倉持は最後まで、一言も発しなかった。その目は、まるで何かを観察しているようだった。
その夜、田代は自室で数学の問題集を開いた。普段なら一時間で限界なのに、三時間も集中できた。
頭の中で、倉持の顔が浮かぶ。その顔を踏みつける想像をすると、数式がするすると解けていく。
田代は自分の頭を抱えた。
俺は、何をしてるんだ。
でも手は、問題を解き続けていた。
第三章 沢村の一週間——憎む側から憎まれる側へ
次の週、くじを引いたのは沢村だった。
彼は紙片を見て、顔を歪めた。
「嘘だろ……」
水無瀬は言った。
「今週の対象は沢村くんです」
倉持が口を開いた。
「沢村くん、頑張って」
沢村は彼女を睨んだ。
「お前に言われたくない」
「でも、私耐えられたよ。だから、あなたも大丈夫」
倉持は笑っていた。それは優しい笑顔だった。だからこそ、沢村は寒気を感じた。
月曜日、朝のホームルーム後。
倉持が沢村の机の前に立った。
「沢村くん、推薦取り消されたんだってね」
「……何の用だよ」
「どうして取り消されたの? 後輩を殴ったから?」
「殴ってない」
「でも、ロッカー蹴ったんでしょ? それって、暴力じゃないの?」
沢村の拳が震えた。
「お前に何がわかる」
「わかるよ」倉持は微笑んだ。「だって、先週私も同じこと言われたから。『お前に何がわかる』って」
沢村は立ち上がろうとした。だが、水無瀬の視線を感じて止まった。
倉持は続けた。
「ねえ沢村くん、あなたって本当は弱いんでしょ? 後輩に馬鹿にされて、ロッカーしか蹴れなかった。人間は蹴れなかった。それって——」
「黙れ」
「——弱いからだよね」
沢村の目に涙が浮かんだ。それを見た瞬間、倉持の目が輝いた。
昼休み、田代が沢村に近づいた。
「なあ沢村、お前って本当にバカだよな」
「……何?」
「推薦で楽に行けたのに、自分で潰すとか。俺らが一般で苦しんでるのに、お前だけ逃げようとしてたんだろ。それで失敗して、今更一般とか——」
田代は自分の声が冷たくなっていくのを感じた。これは先週、自分が倉持に言ったことと同じだ。でも止められない。
「——ざまあみろ」
沢村は何も言い返せなかった。
田代は沢村の肩を叩いた。その手には、優しさのかけらもなかった。
放課後、図書室。
水無瀬が結果を告げた。
「今週の一位は、倉持さんです」
倉持は五千円を受け取った。その手は震えていなかった。
水無瀬が訊いた。
「倉持さん、先週は何も言いませんでしたね」
「はい」
「今週は違った。なぜ?」
倉持は少し考えてから答えた。
「先週、憎まれる側の気持ちがわかりました。だから今週は、憎む側の気持ちもわかりたかった」
「そして?」
「わかりました」倉持は微笑んだ。「憎むって、気持ちいいんですね」
四人が息を呑んだ。
水無瀬は初めて、満足そうに笑った。
「正解です。人間は、憎悪を快楽として感じるようにできています。それを理解した者だけが、この訓練を完遂できます」
その夜、沢村は自室で天井を見つめていた。
涙は出なかった。ただ、自分が少しずつ消えていくような感覚があった。
スマートフォンに、母親からメッセージが届いた。
「頑張ってね。あなたならできるから」
沢村はスマートフォンを投げた。壁に当たって、画面が割れた。
第四章 柏木と真中——それぞれの憎まれ方
三週目は柏木、四週目は真中が選ばれた。
柏木の週
柏木は英語ができない。だから倉持は、英語でずっと話しかけた。
「How are you today, Kashiwagi-san? Oh, you don't understand? That's so sad.」
柏木は耳を塞いだ。でも倉持の声は頭の中で響き続けた。
田代は柏木の親の離婚を持ち出した。
「お前の親、離婚するんだろ? お前が馬鹿だから、家族も壊れたんじゃないの?」
柏木は泣かなかった。ただ、その夜、母親に電話した。
「お母さん、私もう無理かも」
母親は言った。
「頑張りなさい。あんたが合格しないと、お父さんが——」
柏木は電話を切った。
真中の週
真中は人と話すのが苦手だった。だから四人は、ずっと真中に話しかけ続けた。
「真中、昨日のテレビ見た?」
「真中、これどう思う?」
「真中、なんで黙ってるの? 感じ悪いんだけど」
真中は答えようとした。でも声が出なかった。喉が締まって、息ができなかった。
水無瀬が言った。
「真中さん、あなたは教師になりたいんでしたね」
「……はい」
「教師は、生徒と話さなければいけません。でも、あなたは話せない。つまり——」
水無瀬は冷たく微笑んだ。
「——あなたには、資格がないんです」
真中はその場で泣き崩れた。
四週目が終わったとき、五人の成績は全員上がっていた。
でも、五人はもう互いを見ることができなかった。
第五章 水無瀬の過去——そして沢村の失踪
十一月の終わり、ある日の放課後。
真中が水無瀬に尋ねた。
「先生は……どうしてこの方法を知ってるんですか」
水無瀬は手を止めた。
「なぜそれを訊くんです?」
「だって、普通じゃないから」
水無瀬は窓の外を見た。
「私も、かつて同じ方法で教わりました」
五人が息を呑んだ。
「十五年前、私が高校三年生のとき。同じような家庭教師がつきました。その人は私を含む六人の生徒を集め、同じルールを課しました」
「それで……」柏木が訊いた。「全員、合格したんですか」
「いいえ」
水無瀬は振り返った。その目は、初めて感情を帯びていた。
「六人のうち、五人が合格しました。一人は——」
彼女は言葉を切った。
「——途中で、いなくなりました」
「いなくなった?」
「ええ。ある日突然、学校に来なくなった。私たちは探しませんでした。探す資格がないと思ったから」
倉持が訊いた。
「その人、今どうしてるんですか」
水無瀬は長い沈黙の後、答えた。
「知りません。でも、時々夢に出てきます。彼女は私を見て、笑っています」
「笑ってる?」
「ええ。まるで、『あなたも同じことをしている』と言っているように」
その週の金曜日、沢村が来なかった。
田代が訊いた。
「沢村は……どうしたんですか」
水無瀬は淡々と答えた。
「彼は脱落しました」
「脱落って……」
「契約金を払えなかったので、解約です」
だが、その日の夕方。田代は水無瀬の鞄から一枚の答案用紙が落ちるのを見た。
名前欄には——沢村と書かれていた。
日付は、今日だった。
田代は声を出せなかった。
その夜、田代は沢村の家に電話した。
出たのは沢村の母親だった。
「沢村くん、最近学校来てないんですけど……」
母親は泣いていた。
「息子が……息子が、三日前から帰ってこないんです」
田代は電話を切った。
手が震えていた。
第六章 最後の週——そして崩壊
十二月、最後の週。
くじ引きの順番が回ってきた。残っているのは田代だけだった。
「今週の対象は、田代くんです」
田代は笑った。
「ああ、やっと俺の番か」
倉持が訊いた。
「怖くないの?」
「怖いよ」田代は言った。「でも、もうどうでもいい。俺たち、もう終わってるから」
月曜日、朝。
倉持が田代の机の前に立った。
「田代くん、あなたの父親って開業医なんだよね」
「……ああ」
「でも、あなたは数学ができない。医学部なんて無理だよね」
田代は何も言わなかった。
「ねえ、あなたって本当は医者になりたくないんでしょ? でも親に言えない。弱虫だから」
田代は倉持を見た。
「お前、本当に変わったな」
「変わった?」倉持は首を傾げた。「私は最初からこうだったよ。ただ、気づかなかっただけ」
その週、誰も田代を憎まなかった。
柏木も真中も、もう言葉が出なかった。
水無瀬が訊いた。
「どうしたんですか? 続けなさい」
「もう無理です」柏木が泣いた。「私たち、もう限界です」
真中も泣いていた。
「沢村くんは……沢村くんは、どこに行ったんですか」
水無瀬は答えなかった。
倉持だけが、冷静だった。
「先生、私は続けます」
「倉持さん……」
「だって、成績上がってるから。このままやめたら、全部無駄になる」
田代が言った。
「お前、狂ってるよ」
「狂ってる?」倉持は笑った。「狂ってるのは、この世界でしょ。成績が全て、合格が全て、そのためなら何でもする——それがこの社会のルールでしょ? 私は、そのルールに従ってるだけ」
十二月の終わり、センター試験の一週間前。
田代は自室で、沢村のSNSを見ていた。
最後の投稿は、三週間前。
「もう、疲れた」
それだけだった。
田代はスマートフォンを置いた。そして、机の上の問題集を見た。
成績は、確かに上がっていた。偏差値は五十八まで伸びた。
でも、その数字を見ても、何も感じなかった。
第七章 合格発表——そして真実
三月。
錦ヶ丘学園の掲示板に、合格者リストが貼られた。
田代——国立医学部、補欠合格後、正規合格。
柏木——早稲田大学政治経済学部、合格。
真中——地方国立教育学部、合格。
倉持——私立大学文学部、合格。
沢村の名前は、どこにもなかった。
卒業式の日。
四人は同じ体育館にいたが、誰も誰とも話さなかった。
式が終わり、校門を出るとき、倉持が田代を呼び止めた。
「田代くん」
「……何」
「おめでとう」
田代は答えなかった。
倉持は続けた。
「私たち、成功したんだよ。全員合格した。先生の方法は、正しかったんだよ」
「沢村は?」
倉持の顔から笑みが消えた。
「……沢村くんは、弱かったから」
「弱かった?」
「ええ。耐えられなかった。だから——」
倉持は言葉を切った。
田代は彼女の目を見た。その目には、何の感情もなかった。
「お前、本当に何も感じないのか」
「感じるよ」倉持は言った。「ただ、感じることと、進むことは別だから」
その夜、田代の家に一通の手紙が届いた。
差出人は、水無瀬だった。
封を開けると、中には一枚の写真が入っていた。
写真には、六人の高校生が写っていた。全員が制服を着て、笑顔でカメラを見ている。
だが、一人だけ——端に写っている女性は、笑っていなかった。
その顔は、若い頃の水無瀬だった。
写真の裏には、手書きで文字が書かれていた。
「十五年前、私たちは六人でした。
一人は、途中でいなくなりました。
彼女の名前は、沢村静香。
今年、あなた方も四人になりました。
失った一人の名前は、沢村拓海。
静香は、拓海の母親です。
私は彼女を救えませんでした。
だから、彼女の息子も救えませんでした。
あなたは、次の誰かを救えますか?」
田代は手紙を握りしめた。
その手は、震えていた。
エピローグ 継承
四月。
水無瀬は新しい街の、新しい高校の前に立っていた。
手には五枚の履歴書。すべて、保護者からの依頼だった。
彼女はスマートフォンを取り出し、メッセージを確認した。
送信者:倉持。
「先生、私も教師になりました。先生と同じ方法で、生徒を教えたいです。やり方を教えてください」
水無瀬は返信した。
「いいでしょう。ただし、一つだけ条件があります」
「何ですか?」
「あなたが失った者の名前を、忘れないこと」
水無瀬は高校の門をくぐった。
新しい図書室で、五人の生徒が彼女を待っていた。
彼女は微笑んだ。それは、優しい笑顔だった。
でもその目は——何も映していなかった。
同じ日、別の街。
倉持は自分の部屋で、一枚の名簿を見ていた。
そこには、五人の生徒の名前が書かれていた。
彼女はペンを取り出し、最初の名前に丸をつけた。
そして、小さく呟いた。
「沢村くん、ごめんね」
その夜、地方新聞の片隅に小さな記事が載った。
「行方不明の高校生、遺体で発見——山中の崖下で」
記事には、沢村拓海の名前が記されていた。
死因は、転落死。
だが、遺体のポケットからは、一枚のメモが見つかっていた。
そこには、こう書かれていた。
「俺は、誰かを憎むことができなかった。
だから、自分を憎むしかなかった。
誰か、俺を許してくれ」
【終】
憎悪の成績表 ~合格のために、誰かを憎め~ ソコニ @mi33x
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