第二節 青のラボと不思議な日常

 シエラの研究室は、研究塔の中層、半球ガラスのフロアにあった。


 外にはサンゴの街並み。

 部屋の中には、貝殻型のサーバー、光る石板、古代文明の欠片。 

 机の上には、マーレ(人魚)用のカフェイン入り海藻ドリンクと、人間用に調整されたお茶。


「ここが私たちのラボ。弟子くん、歓迎するよ」


「『たち』って」


「君も含んで複数形。たくさんのマーレの研究員も働いているのよ」


 ラボには他にも数名のマーレ(人魚)の研究員がいた。 

 いたずら好きのイルマ、水質工学担当のレン、寡黙な記録係ノノ。   

 みんな尾びれを揺らしながら慎に興味津々だ。


「博士の『弟子』ってほんと?」

「人間界の勉強って一体、何するの?」

「、、、カワイイ、、、」


「質問多い!!」


「人気ね。やっぱりかわいい」


「『かわいい』多用するの禁止しましょう!?」


 生活区画も用意されていた。 空気泡で満たされた個室で、寝具やシャワーも地上仕様。


 窓の向こうは、夜光虫のような光が揺れる海。


 最初の一晩、慎はまるで修学旅行の初日みたいに、興奮と不安でなかなか眠れなかった。


(ほんとに……異世界転生?、、、なのか?)


 だが、ポケットに入れっぱなしの祖父母の写真と、

昼間の石碑の感触。

 これが「ただの夢」ではないと、静かに告げていた。

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