005 万能魔法の許可証

 ――あれは五歳の誕生日。


 両親が魔法使いの家庭教師をつけてくれ、彼女から魔法の基礎を叩き込まれた。


 この世界の魔法は、火・水・風・土、そして私が持っている「聖属性」の五つに分類される。


 たいていの人間は一つの属性しか扱うことができない。ごく稀に二つの属性を使える者が現れる程度。


 そういった者は「賢者」と呼ばれ、ほとんどは魔導士ギルドに引き取られて育成されることになる。


 そして、同じように聖属性の才能を持つ者は王族を除けば、大抵は教会やその関連施設に預けられる。


 聖属性魔法だけは他の魔法とは異なり、極めて独特な方法で習得されるのだ。


 それは、神の教えが書かれた教本を、ただひたすら毎日読み込み、暇さえあれば神に祈りを捧げて祝福し、悪魔には呪いの言葉を吐き続けるというもの。


 最初にその習得方法を魔法使いの先生から聞かされた時、耳を疑い、本気で悪い冗談かと思った。


 だが、先生の表情が本気だと分かった瞬間、全力で引いた。


 まさか聖魔法の習得方法が、前世の怪しい宗教の修行そのものだったと分かり、「なんて才能をくれたんだ」と、管理者かみを恨みそうになったほどだ。


 だが、そうではないと私は気づいてしまった。


 きっかけは魔法使いの先生が火魔法の発動方法を教えてくれた時のことだ。


 聖魔法しか使えない私にあまり教えることがない先生は、「せめて給料分は仕事をしないと」と思ったらしい。


 何かの参考になればと、初級の火魔法「火球ファイアボール」の発動方法を教えてくれた。


 そして、その夜。


 どうしても前世からの夢を諦めきれなかった私は、ダメもとで火球ファイアボールを試してみた。


 すると、小さな火の玉が、ぽうっと目の前に現れ、ふよふよと宙を漂い、すっと消えたのだ。


 その夜をきっかけに、魔法使いの家庭教師にさまざまな魔法が書かれた本を借りて読み漁り、ある結論を導き出した。


 それはこの右手にある聖女の紋章とは、類まれな聖魔法の才能を持った者の証ではない。


 右手の紋章は『聖魔法の適性』ではない――「万能魔法」の許可証だ。


 つまり、聖属性魔法などというものは存在しない。


 この世界にある魔法は火・水・風・土の四属性と、それらすべてを網羅した全属性――すなわち、万能魔法だけなのだ。


 だが、この世界で唯一の宗教であるマリオロス教は、この万能魔法を「聖魔法」と偽り、その類まれな有能な魔法を独占している。


 魔族との戦いと自らの利益のためだ。


 ちなみに、なぜ私が「全属性魔法」とは呼ばず、「万能魔法」と呼ぶのかというと、この魔法に無限の可能性が秘められているからだ。


 聖属性魔法の特徴のひとつに治癒魔法があるが、教会の奴らバカは、「神が人の治癒力を高める」と説明している。


 しかし、実際には魔力によって肉体を創造し、欠損箇所に融合させているのだ。


 つまり、魔力で細胞を生成し、それを身体に張り付けているだけであって、治癒力を高めているわけではない。


 逆に、そんなことをすれば、強制的に治癒力を引き上げられた人間は、逆に栄養失調で死ぬ可能性すらある。


 そう! 私が提唱する『万能魔法』とは、魔族が嫌がる物質や人間の肉体、その他あらゆる物質――


 万物を、魔力で無から創造することができる魔法なのだ!


 ――あの日から、私は『世界の仕様』を疑っている。


 私が右手に輝く紋章を見つめながら、過去の思い出にふけっていると、魔族の軍団の後方から、巨大なドラゴンが現れるのが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る