魔女の烙印を押された聖女は、異世界で魔法少女の夢をみる

黒鍵

001 五秒で転生

 一人の女性が、真っ白な部屋に佇んでいた。


 ここは、人生を終えた者だけが訪れる場所。すなわち、命を失った者しか辿り着けない、死後の世界だった。


「ここは……どこなの……?」


 呟きながら、彼女は記憶をたぐり寄せる。


「たしか、母さんを看取ったあと、すぐに同じ病気にかかって……後を追うように……」


『その通り。あなたは死にました。そして、あなたの人生に少しばかり哀れみを覚えた私が、召喚したのです』


 姿は見えないのに、柔らかくて冷たい声。彼女はびくりと肩を震わせ、状況を理解しようと必死に考える。


『要件は単純です。あなたを私の管理する世界へ転生させます。その際、いくつかの優遇を与えましょう』


「優遇……?」


『全属性魔法の才能。やや恵まれた地位。世界の予備知識。そして前世の記憶の一部――以上です』


 彼女は自分が本当に死んだことを受け入れられず、思考が追いつかない。


 戸惑っている間にも、声は淡々と続けた。


『では、転生するか否かをお決めください。忙しいので、5秒以内に』


「え、まっ――」


『5』

 心臓が跳ねる。


『4』

 息が詰まる。


『3』

 考える暇なんて、ない。


『2』

 でも、戻る場所も、ない。


『1』

「い、行きます! 転生、します!」


 白が、さらに白く爆ぜた。





 温かい。柔らかい。


 ぼやけた視界の向こうで、美しい金髪の女性が泣き笑いしながら微笑んでいる。その隣には、同じ金髪の精悍な男性。二人とも、私を覗き込んでいた。


 ――転生、成功。たぶん、今の私は赤ん坊だ。


 まだうまく動かせない体を懸命に動かし、右手をゆっくりと持ち上げる。


 手の甲には聖女・・の紋章が淡く輝いていた。


 白い光が静かに収まり、世界が形を持ちはじめる。泣き声、笑い声、温かい手、遠くの鐘の音。


 私は深く息を吸い込む。


 ――目指すのは『魔法少女』。看板の「聖女」がどうであれ、夢だけは譲らない。


 最初の一歩は、ここからだ。

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