第六話「エキシビジョンpart 2」
三戦目
「第三試合、ミレーネ・フォーゲル 対 クラウス・リントベルク」
淡いダークブラウンの髪を揺らして、ミレーネが立ち上がる。
マキにちらりと視線を投げると、小さく微笑んだ。
「次はあたし。オルガンさん、見ててね」
「は、はい」
まだ、話したこともないミレーネからの声かけに、マキは驚いた。
それでも、ミレーネのその一言は、妙に心強く感じられた。
彼女のフロッグⅡは、ほぼ標準仕様。
ただ、シールドがやや大きく、頭部には補助スコープが一つ追加されている。
対するクラウス機は、これまたバランスの良い万能型。
射撃も近接もそつなくこなせる装備だ。
「ふん、前の平民たちがちょっとやれたからって、調子に乗るなよ」
通信越しにクラウスが吐き捨てる。
「平民にしてはよくやっていると褒めてやってもいいが、ここからは我々の番だ」
「そうですか」
ミレーネは穏やかに答えた。
「じゃあ、“平民”なりに頑張ってみますね」
「試合開始!」
クラウス機が先に動いた。
適度に距離を保ちながら射撃を行い、隙あらば前に出てくる。
教本通りの、整った戦い方だ。
ミレーネ機は、あえて決定的な反撃に出ない。
シールドの角度を細かく変え、弾を滑らせながら滑走する。
(受け流してる……)
マキは思わず唸る。
正面から受けるのではなく、シールドを斜めに構えて弾を滑らせているから、機体への負荷が少ない。
「逃げ回るだけか? それで勝てると思っているのか?」
クラウスの苛立ちが通信ににじみ始めた頃、ミレーネ機の動きが変わった。
シールドをぐっと前に出し、今度はクラウス機へと滑り込むように接近する。
「ここだ」
小さく呟くのが聞こえた。
クラウス機が慌てて射撃をしながら後退する。
だが、足元――演習場の地面には、先ほどまでの試合で抉れた小さな轍や凹みがいくつもできていた。
ミレーネ機はそこを正確に踏む。
バランスを崩すのではなく、逆にその凹みを使って姿勢を低くし、シールドを構えたまま滑り込む。
「なっ――」
クラウスの驚きの声。
ミレーネ機がシールドでクラウス機の銃口を上へ弾き上げ、そのまま胸元へ軽くタックルを入れる。
大きなダメージではないが、完全に体勢を崩される一撃だ。
「このまま続けたら、あなたの機体、本当に壊しちゃいそうですし」
ミレーネの声は穏やかだった。
「この辺で、やめておきませんか?」
沈黙のあと、クラウスが呻くように言った。
「……降参だ」
レーナがすぐに試合終了を宣言する。
観覧席から、先ほどよりも大きな拍手が湧き上がった。
レオンハルトは、その様子をじっと見ていた。
唇を噛むような仕草を見せたあと、低く吐き出す。
「平民がぁ……」
悔しさと、わずかな警戒が、その声に混じっているのをマキは聞き逃さなかった。
最終戦
「最終試合。マキ・オルガン 対 レオンハルト・フォン・ヴァルクス」
とうとう名前を呼ばれた。
「マキ……」
アナスタシアが不安そうにマキを見上げる。
「大丈夫。リーゼは乗り慣れてる。」
そう言ってみせたものの、手のひらは汗でじっとりと濡れていた。
武装置き場に向かいながら、マキはきょろきょろと並んだ装備を見回す。
「銃は……」
一瞬、標準ライフルに手が伸びかけたが、すぐに引っ込めた。
右手の義手が、わずかに震える。
(やっぱり、無理だ)
視線をずらすと、作業用ラックに巨大なレンチが立てかけられているのが目に入った。
整備で何度も手にしてきたサイズだ。
「このレンチと、標準シールドをお願いします」
「……は?」
整備兵が素で固まった。
「お前、本気で言ってるのか? それは整備用だぞ?」
「ボク、機械をいじめるのはあまり好きじゃないので。できるだけ軽く済ませたいんです」
マキは照れくさく笑いながらも、巨大レンチを取る。
「ごめんね。少しだけ力を貸してね。あとでちゃんと直してあげるから」
誰にともなく、フロッグⅡに声をかける。
整備兵は呆れたような、しかしどこか感心したような顔で頷いた。
「……ここまで来て止められるほど、俺も偉くねえ。好きにやれ」
レンチとシールドを装備したフロッグⅡに乗り込み、マキはコックピットを閉じる。
右腕の義手で操縦桿を握り、左脚の義足をペダルに乗せた。
「主電源、投入。……よし、電圧安定」
スイッチを順番に倒していく。
回転計が徐々に針を上げ、油圧計が緑色の範囲で止まる。
(大丈夫、ちゃんと動いてくれる)
一方、レオンハルトのフロッグⅡは、追加装甲と大型ジェネレーターを搭載したヘビー仕様だ。
駆動系も強化されているのか、動力音がやや太く低い。
脚部ホイールも高出力タイプのようだ。
(スピードもパワーもある。でも、きっと扱いづらい。あれを乗りこなしてるってことは――)
「侮っちゃだめだ.....」
マキは、レオンハルトの努力の痕跡を、機体越しに感じていた。
つづく
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