第2話 〈十三祠〉爆破解体セレモニー(予定を一部変更してお送りします)
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[配信再開]
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【カメラの映像】
「チャンネル登録者数五十万人ありがとうございます。ありがとうございます……」
〈十二祠さま〉の後方から一斉に鳥が飛びたち、ツキノワグマなどを含めた獣たちが慌てふためいた様子で飛び出し、逃げ散っていく。
画面が激しく振動し、荘厳なオーケストラがマイクに入って来る。
【チャット欄】
・!?!?!?
・地震? 地鳴り?
・どういう怪異?
・おいでなすった!
・『
・キタコレ!
◇◇◇
【カメラの映像】
木々をなぎ倒し、踏み潰しながら、巨大な建設機械が姿を現す。全長二百メートル以上。巨大なアームの先端では、直径二十メートルにも及ぶホイールが重々しい音を立てて回転している。
【チャット欄】
・えええええええっ!
・バケットホイールエクスカベーター!
・空気変わったどころの騒ぎじゃねぇっ!
・日本の山の中になんでいきなりこんなもんが
・なんじゃこりゃ
・露天掘りっていって、海外のデカい鉱床とかで地表ちかくの鉱物を大量に削り取るのに使うクソデカ重機
・日本にはないはずなんだけど櫻衛建設の関わる現場で時々目撃されてる
・それ自体が櫻衛のバケットホイールエクスカベーターっていう都市伝説なんだが、実在したんか
・自走可能なものとしては世界最大の重機。
・全長二二五メートル! 重量約一四二〇〇トン!
・ただし、日本にこんなもんが動ける道路はない
・これマジかよ?
・櫻衛建設のロゴが入ってる
・櫻衛建設の社歌が流れてる
◇◇◇
【カメラの映像】
外周部に十八個のバケットショベルをつけたホイールが重々しく回転しながら前進し、画面を覆っていく。各部に取り付けられたスピーカーからはフルオーケストラの社歌が流れ続けている。
大地を穿て 鋼のドリルよ
砕け岩盤 鳴り響けダイナマイト
鉄骨は空へ 塔となり
我らの道を 未来へ拓く
櫻衛! 櫻衛! 櫻衛建設!
基礎を固めよ 橋梁を架けよ!
櫻衛! 櫻衛! 櫻衛建設!
発破の響き 明日まで轟け!
【チャット欄】
・デカァァァァァァイッ!
・てい君離れろ!
・前に立つな!
・まさか、かばってる?
・〈十二祠さま〉に頭やられてる?
・来るな来るな来るな来るな!
・おーえい! おーえい! おーえいけんせつ!
◇◇◇
【カメラの映像】
「来るな来るな来るな来るなァァァァーーーッ!」
絶叫し、バケットホイールエクスカベーターの前に立ちふさがろうとするてい君。
「そこまでだ」
その声と共に、てい君はうつ伏せに倒れ込む。
「すまないが、正気に戻るまで拘束させてもらう」
てい君の体が仰向けに。ヘルメットにファン付き作業ジャケット、胸に『株式会社櫻衛建設 代表取締役社長 帆置知彦』という名札をつけた三十歳前後の優男がカメラに映る。男はてい君の体からカメラを取り外して自分に向ける。
「櫻衛建設代表取締役社長、帆置知彦だ。これより悪性怪異物件群〈十三祠〉のひとつ、〈十二祠さま(通称)〉の解体を実施する。既に〈十二祠さま(通称)〉の呪詛を受けている視聴者諸君のために作業を公開しよう。〈十二祠さま(通称)〉、および〈十三祠〉はこれより完全に消滅する。配信が終わったら我が社に感謝の祈りとツイートをして、枕を高くして眠ってくれたまえ」
【チャット欄】
・社長きちゃった……
・この我田引水ぶりよ
・(通称)を強調するあたりにこじれた幼児性が垣間見える
・まさに社長
・さっさと片づけてくれ
・おーえい! おーえい!
・やめろ! やめろ! やめろ! やめろ!
・てい君どうなった
◇◇◇
【カメラの映像】
「待たせたな。『
バケットホイールエクスカベーターの巨体が再び前進し、木造の祠へ迫る。
クレーンよ舞え 梁を掲げ
コンクリートよ 夢を抱け
掘削の汗 型枠満たし
築かれるのは 希望の街よ
櫻衛! 櫻衛! 櫻衛建設!
鉄骨を組め 光を通せ!
櫻衛! 櫻衛! 櫻衛建設!
未来を支える 我らが力!
歌声と共に低い駆動音が轟き渡る。バケットショベルが祠に触れる瞬間エアバッグでも挟まったような停滞がわずかにあったが、それが抵抗の限界だった。バケットホイールエクスカベーターは地面ごとすくい上げるように〈十二祠さま〉を持ち上げていく。祠の基部から伸びた木の根、あるいは神経のようなものが地面に張り付き、抵抗しようとするが、結局なすすべなく祠は引き裂かれ、血肉を撒き散らして破砕されていく。地面に突き刺さった〈根〉もまた土ごとバケットにすくい取られ、歌う重機の機構へと飲み込まれていく。
【チャット欄】
・無抵抗?
・いや、普通の土建屋だったら今頃社員皆殺しになるくらいの呪詛を放っとるけど、社歌が全部圧殺しとる
・ただの愛社ソングではないということか
・社歌である必要がわからない……
◇◇◇
【カメラの映像】
粉砕された木片や骨、肉がアーム内のコンベアを流れ、クローラに乗った本体部分へと吸い込まれていく。
【チャット欄】
・やったか、いや、喰ったか……
・フラグもクソもねぇや
・〈十二祠さま〉って生き物だったのか
・ナマモノというか
・だからどこからどうやって移動してきたんだよこの鉄の動く城は
・って、人! 人流れてるっ!
◇◇◇
【カメラの映像】
祠の残骸や肉片などにまじって、てい君の配信に乱入した女性がコンベアに運ばれていく。
【チャット欄】
・相談者?
・〈十二祠さま〉に取り込まれてた?
・あのままコンベアられて行くとヤバいのでは?
◇◇◇
【カメラの映像】
帆置知彦が手首を持ち上げる。
その上に黒い身体に赤い羽根、CG映像を思わせる質感の猛禽が現れる。
「救助を頼む」
その言葉を受けて飛び立った怪鳥は見る間に戦闘機サイズまで巨大化。バケットホイールエクスカベーターのアームに取り付き、片方の爪で女を持ち上げ、先に地面に転がっていたてい君の隣へ並べるように地面へ下ろすと、幻のように姿を消す。
【チャット欄】
・なんだ?
・鳥の怪異?
・こういうのは神秘と言いたい
・ロック鳥?
・てい君いた
・トラロープで縛り上げられとる……
・そういうことに使うロープだっけ
・本来は立入禁止の標識用のはず
◇◇◇
【カメラの映像】
〈十二祠さま〉を完全に粉砕、地面ごと削り取ったバケットホイールエクスカベーターは、巨大なアームとホイールを器用に動かし〈十二祠さま〉跡地に空いた大穴を軽く整えた。
【チャット欄】
・クソデカバケットで整地しとる
・ちょっとかわいい
・バケットホイールエクスカベーター>>>>>祠
・そもそもその対戦カードはなんなんだよ
・終わった?
・いや、緊急霊災警報はまだ続いてる
・全部で十三あるんだっけ
・全部喰わないと終わらないのか
◇◇◇
【カメラの映像】
「続いて〈十三祠〉の残り十二箇所の一斉爆破を実施する。本当ならば盛大に爆破解体セレモニーを実施する予定だったが、特別霊災警報が出たとあってはやむをえん」
【チャット欄】
・ばくはかいたいセレモニー……
・一体何を言っているんだ……
◇◇◇
【カメラの映像】
「『
帆置知彦は見えないなにかに指示を出し、スマートフォンを取り出す。
【チャット欄】
・なにと喋ってるんだ?
・無線?
・普通に電話じゃないの?
・喋ってから電話出してた
・櫻衛建設の社長は自分の中に異界を持ってて、そこの怪異を自由に使役できる。そこへの指示出しと思われる
・バケットホイールエクスカベーターもロック鳥みたいなのもそこから引っ張り出してる
・人呼んで歩くパンデモニウム、人の形の百鬼夜行
・ワンマンゼネコン
◇◇◇
【カメラの映像】
ジリリリリン! ジリリリリリリン!
帆置知彦の手の中のスマホが古めかしい着信音を響かせる。
次の瞬間、画面に閃光がはしり、遠景に巨大な光の柱が立ち上がる。
轟音が大気を揺るがし、嵐のような烈風が吹き抜けた。
【チャット欄】
・なんじゃあの十字架みたいな光の柱は
・他の祠が消し飛んだんだろう
・呪遺物反応デバイス……?
・わからん、だれか解説して
・呪遺物反応デバイスとは
呪物やら聖遺物やらに高エネルギーのレーザーを当てて
核反応みたいな霊的爆発を引き起こすやべぇ装置である
・山梨なんだけど富士山からも同じような光の柱が立ってる……
・松本、使徒でも死んだみたいなピラーが見える
・おーえい、おーえい
・もう歌うしかない
・おーいえー
・あ、緊急霊災警報解除だそうです
・……あざっす
・本当に〈十三祠〉全部消し飛ばしよったんか
・なんなんだよマジで……
◇◇◇
【カメラの映像】
帆置知彦がカメラに顔を出す。
「現時刻をもって、悪性怪異群〈十三祠〉の完全消滅を宣言する。大いなる感謝と共に我が櫻衛建設を称え、末代まで記憶してくれたまえ。この配信の後半は櫻衛建設がお送りした」
【チャット欄】
・ここは櫻衛建設のチャンネルではないんだが
・ひどい乗っ取り劇をみた
・てい君のチャンネル返してあげて
・まぁさすがにこのチャンネルは凍結されそうだけど
・櫻衛建設ばんざい
・櫻衛に栄光あれ!
・おーえい! おーえい!
・本日の祭り会場はこちらですか
――――――――――――
[配信終了]
――――――――――――
<あとがき>
ここまでお読みいただきありがとうございます。
続く3,4話は掲示板スタイルでお送りします。
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