第14話 [スローダンス]

 お爺さまブルーノが所有してるホテルの最上階にあるレストランで裕くんとディナーをとり、今は同階のバーラウンジで隣合ってお酒を飲んでいる。私は軽めに果実系のカクテルを頼み、裕くんはチーズを肴にウイスキーをロックで飲んでいる。


 カラン


 裕くんの持つウイスキーのグラスがくるりと回されると、氷が音を立てて溶けた水とウイスキーが混ざる。なぜかその仕草に大人の色気を感じずにはいられない。


「裕くんってお酒強いのね」


たしなむ程度だけどね、日に3杯までと決めてるんだ」


「何か理由あるの?」


「23歳の頃にさ、新人歓迎会で空きっ腹に駆け付け三杯やらされてさ(今ではアルハラです)。二日酔いならぬ三日酔いになって、それから飲む量はセーブしてきた、やっすいチューハイだろうがテキーラだろうが必ず3杯までってね」


「でも間が持たなくない?」


 裕くんは一口ちびりと飲んでウイスキーを味わって「ふぅ」と優しく微笑みながら息を吐く、それを見てバーテンダーも心地良く微笑んだように見えた。


「すみません、果実酢を水か炭酸で割ったのをグラスで貰えますか?」


「レモン、ザクロ、グレープフルーツがございますが?」


「ザクロを炭酸でお願いします」


「裕くん、私も良いかしら?」


 ザクロの酢の炭酸割りが目の前に置かれる、店内の薄暗いライトでガーネット柘榴石色に光って、ウイスキーの琥珀色とは別の美しさがある。


「こういうのステキね」


「惚れた女にゃ勝てんけぇのぉ」


 しれっと裕くんの口からお国言葉が出てくると、何だか少し心が温かくなる。


「出てるわよ、お国訛り」


「あ、スマン…」


「いいの」


 落ち着いたピアノとアルトサックスとドラムとコントラバスの四重奏カルテットが奏でるスロージャズが静かな時間を演出してくれて、ザクロの果実酢の炭酸割りの赤が裕くんをセクシーに演出させる。


「ミシェル」


「なぁに?」


「まだ、夢を見てる気がする。夢オチは勘弁して欲しいなぁ」


「夢じゃないわ、部屋に戻りましょ。チェックお願いするわ」


 私は本能で理解する、ああ、この後裕くんに抱かれるかも知れないって。私の[女]はこの[オス]を受け入れなきゃいけない、そしては決して他に渡せないモノだと、独占しなきゃいけないと遺伝子DNAレベルで認識した。


「ミシェル、酔った?顔赤いよ」


「そ、そう?うん、酔っちゃったかも」


 私の手は裕くんの手に添えられホテルのセミスイートにエスコートされ、丁寧にソファーに座らせてくれて、ミネラルウォーターのペットボトルを差し出してくれる。


「隣、座っていい?」


「勿論よ、私の隣は裕くんだけのものだもの」


 隣に座る裕くんが私の肩を抱き寄せる、大きくて、温かくて、良い匂いがして、心は穏やかだが、私の中のは裕くんから伝わるを求めていた。

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