犬落語 東海道 道中記
@SoHL
第1話 ぽちの一歩
えー、どうも、お初にお目にかかります。わたくし、柴亭ぽち之助ともうします。
世の中には「犬も歩けば棒に当たる」なんてぇ諺がありますけどね。
あっしの場合は、棒どころか石にも溝にもよく当たる。
まぁ転がる石には苔が生えないって言いますが、犬には土がつくばっかりでね。
そんなわけで、今日はあっしが東海道を旅したときの話を一席。
ある日のこと、ご主人が旅支度をしておりまして。
「おや旦那、今日はお出かけですか?」って聞いたら、
「おう、江戸を離れて大阪まで行くんだ」って言うんですよ。
で、気づいたら置いて行かれた。
玄関の前に縄一本、骨一本、手紙一枚。
“留守番を頼む”って……いや、半年分のご飯はどうするんですかね?
で、あっし思いました。
「旦那が行くなら、あっしも行く!」
忠犬の血が騒ぎましたわん!
しかし、旅の初日、江戸を出てすぐ道に迷う。
人間と違って地図も読めませんし、鼻だけが頼り。
でも途中で焼き鳥の匂いに負けて三度道を外れる。
あるときは猫の集会に迷い込みまして。
「おい犬、ここは通行料にゃ」って言われて、しょうがないから尻尾をふりふりごまかしました。
「まぁまぁ、犬も旅の途中、猫にも礼をね」なんて言ってね。
ようやく品川に着いた頃には足の裏が真っ赤っか。
「もう帰りたい……」って思った矢先、子どもの声がする。
「ねぇ!、迷子のわんこだ!」
見ると小さな男の子。
「お母さん、このわんこ、お腹すいてるよ!」
その子がくれたのが、小さな握り飯一つ。
海苔が半分しか巻かれてない握り飯でしたけど、
あっしには天下一品でしたわん。
思わず言いましたね。
「恩は道端に落ちてるもんですわん」
そしたら横のカラスが言うんですよ。
「拾う前に食べられないようにな」ってね。いやぁ、旅は厳しい。
その夜、月を見上げながら思いました。
ご主人を追いかける旅。
それは、あっしにとっちゃ初めての“自分の足で歩く道”。
人の情けも、動物のぬくもりも、
歩かなきゃ見えねぇんですなぁ。
でも、翌朝にはまた焼き鳥屋の匂いに釣られて寄り道しましたけどね。
旅の目的?それは……腹の虫に聞いてくだせぇ。
「犬も歩けば、恩に当たる」
これが、ぽちの一歩でござんした。
おあとがよろしいようで、わん。
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