遥か遠い先の君へ挑戦状を

梟の剣士

凡人は所詮、天才にはなれない。が、

凡人は所詮、天才にはなれない。


そんな言葉を両親から何度も何度も、幼い内から刷り込むようにかけられてきた。

じっくりゆっくり、おでんの大根に味を沁み込ませるように何度も。

上の言葉は大抵こう続く。


だから、凡事を徹底しろ。


嫌になる。

ほんっっっとうに!!......嫌になる。


僕は昔、幼い頃。とてもエネルギッシュで明るい子供だったらしい。

どんなことにも挑戦し、クラスの垣根を超えていろんな子と友達になり、先生にも好かれるクラスの中心。

そして、よく歌を歌う子供だった。

今となっては見る影もない。

自分の成功が確信できることにしかせず、クラス内ですら友達がいるかいないか、先生に好かれることもないクラスのモブキャラ。

そして、全く歌わなくなった。過去と比べれば驚くほどに。

幼い頃の面影が感じられなくなったとき、僕は高校生になっていた。



高校生になったとき。......やつらは現れた。

人の負の感情を糧に成長する「闇」と呼ばれる化け物達が。

初めて政府が大々的に発表したとき、何を馬鹿なことを某プリティーでキュアキュアな魔法少女達の世界ではないのだからと思って素直に信じることはできなかった。

自分の父親や母親も信じている風では無かった。


「政府は何を言っている?馬鹿馬鹿しい、この国も終わりだな。」


発表を聞いた時の父親のこの言葉は、現実となった。

最悪の形で。

発表された当時、有効な対抗策は無いと言われていた。超常的な現象の「闇」に今ある自衛隊の武装で挑んでも効き目はあるがイマイチといったところ。

研究は進めていたようだが内容は明らかにされなかった。


始めの内は非力かつ低頻度、そしてでしか出現しなかった「闇」は暫くして、市街地にで出現した。そう、集団。

今まで在り得なかった事態。あり得るはずのない事態。

単体での状態でしかデータを得ることができなかった「闇」の集団になった際の被害を予測するこはできなかった。

結果として、出現した市街地にいた人間の大半は死亡か重症の怪我を負った。

過去に類を見ないほどの「闇」による被害だった。

そのころ僕は高校入学直後のピッカピカの一年生でただの無力な子供だ。

そんな僕は偶々できた友達3人と一緒にとある市街地にあるゲームセンターに遊びに来ていた。

そう、始めて集団の「闇」による被害を受けたあの市街地だ。


はっきりいって、あの時死んだと思った。実際、一緒に訪れた友達の内2人は死亡、残り一人は両足を失った。

けれど、そんなことは。目の前で人が沢山死んでしまったはずなのに。

僕はあの時、同い年の少女に助けられた。その時の瞬間が、その時の彼女の表情が、その時の彼女の「闇」を退けていく姿が!たなびく黒髪が!

鮮烈に脳裏に焼き付いて僕を離してくれないから!

彼女は、を歌った。聞いたこともなく、意味を理解することもできない歌。

なんの言語であるか検討もつかない、そんな歌を。

ただそれだけで、「闇」が消えていった。

少女本人も、自分の超常的な能力に驚いているようだった。

だが、その少女がいなければ生存者はいなかっただろう。


後にその超常的な能力を持つ人間を「歌の癒し手」と呼ぶようになった。

歌を歌うことにより「闇」を退け、「闇」によって傷ついた人々を癒し、僅かな平穏という幸福をもたらした。

だから、第一線で闘うことになり政府は彼らを酷使した。

しかし、歌で人々を助ける代償として「闇」に浸食され最悪の場合は耐え切れずに死亡してしまった。

奇跡が起こった。

「闇」の浸食に一定以上耐え切ると急激に容姿が変貌し、能力が急上昇した姿。

「天使」となった。それでも、人体への影響は計り知れず僅かな感情しか残らなくなってしまったが。


「天使」となった人間はただ一人しかいない。

初めての能力顕現者であり、僕を助けてくれたあの少女。

彼女は人々から「天才」と、呼ばれた。

僕はそれが許せなかった。

彼女が「天才」?ふざけるな!そうやってもてはやして自分達が生き残るための贄にしたいだけなのに!

ただの少女に押し付けるな!

僕の心は怒りで煌々と燃え盛る。両親の教育によりかき消された灯が、戻る。

ただひたすらにあの子を助けたい。

凡人である僕が、彼女に追いついて、孤独ではないのだと示し贄にしないために。

本当の天才なんて、認めてなんかやらない。


これは僕からの、君を助けるための挑戦状。

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