第15話「黒幕の正体」

 オズワルド財務卿の一件が片付き、セドリックの態度も軟化したことで、俺の周囲はようやく平穏を取り戻したかに見えた。

 だがそれは嵐の前の静けさに過ぎなかった。

 投獄されたオズワルドを尋問する中で、衝撃の事実が判明した。

 彼の背後にはさらなる黒幕が存在したのだ。


「……隣国の秘密組織だと?」


 尋問報告を聞いた俺は、思わず声を上げた。

 オズワルドの自白によれば、彼に接触してきたのは大陸の覇権を狙う軍事大国・ガルニア帝国の諜報機関だった。

 彼らはダリウスが持つ竜の力を軍事利用することを目論んでいたのだ。

 そのためにまずオズワルドを利用してダリウスから竜涙石の利権を奪い、彼の力を経済的に削ごうとした。

 そして最終的にはダリウス本人を捕らえ、何らかの手段で意のままに操ろうとしていたらしい。


「奴らの狙いは、ダリウス……」


 背筋が凍るような思いだった。

 俺とダリウスの仲を裂こうとしたのも、全てはその計画の一環だったのだ。

 俺はすぐにダリウスにこの事実を伝えた。

 彼はいつものように冷静な表情を崩さなかったが、その赤い瞳の奥には静かな怒りの炎が燃えているのが分かった。


「どこのどいつかは知らんが、俺に手を出そうとは命知らずなことだ」


「油断はできない。相手は一国の諜報機関だ。どんな手を使ってくるか分からない」


 俺たちは警戒を強め、王宮とナイトレイヴン領の警備体制を強化した。

 だが敵は俺たちの想像を、はるかに超える狡猾さを持っていた。

 奴らはダリウス本人を直接狙うのではなく、彼の「弱点」を突いてきたのだ。

 その数日後、王宮の庭園をダリウスと散策していた時のことだった。

 どこからともなく甘い香りが漂ってきた。

 俺はその香りを嗅いだ途端、急なめまいに襲われ、意識が遠のいていくのを感じた。


「……クリストフ!?」


 ダリウスの焦った声が聞こえるのを最後に、俺の意識は完全に途絶えた。

 俺が次に目を覚ました時、そこにダリウスの姿はなかった。

 代わりに、見知らぬ天井と、俺のベッドを取り囲む数人の黒装束の男たちがいた。


「目が覚めたかね、悪役宰相殿」


 男たちの中からリーダー格と思わしき男が、蛇のような笑みを浮かべて言った。


「お主には我らが主の悲願のために、人柱になってもらう」


 男の言葉に俺は全てを察した。

 奴らの真の狙い。

 それはダリウスを意のままに操るための「触媒」として、彼が執着する俺、クリストフの身柄を確保することだったのだ。

 俺は敵の手に落ちた。

 そしてそれはこの国が始まって以来の、最大の危機が訪れる前触れだった。

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