第5話 洞窟の決戦
荒れ地の砂嵐が唸りを上げ、騎士団の馬蹄の音が遠ざかる。
リナとガランは馬車の陰で息を潜めていた。
リナは割れた貝殻の小箱を胸に押し当て、震える指で欠片を握りしめていた。
「お父さん……みんな、死んじゃったの?」
ガランの目は血走り、娘を抱きしめる。
「生きている、リナ。お前と俺と……勇者様だけだ」
勇者は呪いで体が崩れ始めていたが、力を振り絞り二人を支えた。
「まだ終わっていない……洞窟へ。あの岩陰に隠れるんだ」
三人は砂嵐をくぐり抜け、荒れ地の小さな洞窟にたどり着いた。
風が砂を叩きつけ、視界を奪う。
勇者の足は重く、歩くたびに灰が舞った。
リナは涙をこらえた。
「勇者様、痛くないの?」
勇者は弱々しく微笑む。
「平気だ、リナ。お前たちの夢を守るためだ」
ガランは娘を背に庇い、低く呟く。
「勇者様……」
洞窟の奥に身を潜め、三人は息を殺した。
外は砂嵐。
魔剣士の気配も消えたかに思えた。
だが、静寂は破られた。
砂嵐の幕を裂いて、魔剣士が洞窟の入り口に現れた。
銀髪は乱れ、脇腹の傷から黒い血が滴る。
優しい顔つきは消え、鬼のような表情であった。
「勇者様……逃げても無駄です。命令は絶対」
魔剣「ソウルイーター」が黒い炎を放ち、洞窟の壁を焦がした。
リナは恐怖で叫んだ。
「お父さん!」
ガランは娘を背後に押しやり、魔獣の骨の槍を構えた。
「リナ、隠れろ!こいつは俺が……!」
勇者の目は燃えていた。聖剣を握る力はない。
それでも、彼は立ち上がった。
「お前を……ここで終わらせる!」
素手で魔剣士に飛びかかった。
呪いの刃が肩を裂き、血と灰が舞ったが、勇者は怯まない。
獣のような咆哮を上げ、魔剣士の首に噛みついた。
牙が肉を裂き、黒い血が噴き出す。
魔剣士は驚愕の叫びを上げ、剣を振り回したが、勇者は離さなかった。
力を振り絞り、首を噛みちぎる。
黒い血が洞窟の床を染め、魔剣士は倒れ、ついに動かなくなった。
呪いの炎は消え、洞窟は静寂に包まれた。
勇者は倒れ込む。
体はほぼ崩壊し、息も絶え絶えであった。
リナが駆け寄り、泣きながら叫んだ。
「勇者様、死なないで!夢は、残ってるよ!」
ガランは小箱を拾い、娘に渡し、そして抱きしめた。
「勇者様、終わったのですね……」
勇者は弱々しく囁いた。
「ガラン、リナ……本当にすまない」
その言葉は、次の瞬間を予感させるように静かに響いた。
洞窟の外では、砂嵐がまだ吹き荒れていた。
戦いは終わったが、試練はまだ終わっていない。
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