庶民との結婚を命ぜられた公爵令嬢

しょうわな人

第1話 【令嬢】婚約破棄される

【作者より。この物語は話題始まり【令嬢】は三人称、話題始まり【庶民】は一人称となっております。】 






「ロリエ・フルーレ! 私は今ここで君との婚約を破棄する! そしてここにいるソフィ・フレメル子爵令嬢と新たに婚約をする!! 君の罪による罰については追って沙汰を申し渡す事となるっ!!」


 卒業パーティーでの突然の婚約破棄騒動に王立学園の卒業生たちはザワザワと騒ぎ出した。


「えっ、嘘でしょ、あの王太子バカ坊、ロリエ様が居なくなったらただのボンクラだよね!」


 口が悪い事で評判の男爵令嬢であるアリエスタ嬢が会場の壁際で周りに聞こえる程度の声でそう言った。聞いた周りの者もみんな頷いてその意見に同意してるようだ。

 婚約者から突然そのような婚約破棄を突きつけられた令嬢は何のことか分からないという顔をしている。その顔のまま婚約破棄を告げてきた婚約者に質問をする令嬢。


「あの、カルス様。わたくし、何か致しましたでしょうか? 罪とはいったい何事でございましょう? 婚約破棄と申されておられますけど、陛下や王妃殿下はご了承なされているのでしょうか?」


 質問を受けた王太子バカ坊の名はカルス・ロワイヤル。その王太子バカ坊は盛大にため息を吐いた後に令嬢の質問に答えた。


「ハア〜…… そんな事も分からないなんて君は本当に母上から王妃教育を受けてたのか? 君の罪はど厚かましくも私の婚約者としてこちらのソフィ嬢を取巻きの令嬢を利用して苛め抜いた事だっ!! やれ、『婚約者がいる殿方に近づくのは淑女としてはしたない!』とか、『目上の方に自分から話しかけるのはマナー違反です!』とか言わせてたそうじゃないか! それにこの可憐なソフィ嬢を物理的に突き飛ばしたり、足を引っ掛けて転ばせたりしたと聞いたぞっ!! その理由は子爵という爵位が低いのに生意気だっと罵ったそうだ!! 君は私が必死で身分差の垣根を無くそうとしていた事を知っていた筈だっ! それなのにそんな事を言うという事は私を否定しているという事だと気がつかなかったのかっ!! 私を否定する君との婚約など私としても望まないっ! よって私の一存で君との婚約破棄を決めたのだっ! 分かったならさっさとこの場を立ち去れっ!!」


 王太子バカ坊の言葉に益々不可解な表情を浮かべる令嬢。それもその筈である。足を引っ掛けて転ばずというのはともかく、ソフィに言った覚えはないが言葉の方は貴族としての当たり前のマナーであったからだ。


「あの、殿下…… 私、取巻きなどという令嬢は存じ上げません。それに、先ほどのお言葉ですとソフィ様の行動を見るに見かねたどなたかがご注意差し上げただけかと存じますが。けれども決して私の友人たちではないと思われます。それと、私の友人たち二人は人様ひとさまを物理的に怪我をさせるような行動を起こす方たちではございません」


 令嬢がそう言うのも当たり前である。令嬢自身も婚約者である王太子バカ坊に興味がなく、家と王家が決めたから従っていただけなのだ。その事を知っている二人しか居ない友人、侯爵令嬢たちも王太子バカ坊に変な虫が引っ付いていようとわざわざ注意するような真似はしたりしないのだ。そして、二人の侯爵令嬢は令嬢や王太子バカ坊よりも五つ下で初等部に通っているのでソフィを突き飛ばしたり、足を引っ掛けて転ばせたりなんて出来ない。

 令嬢も王太子バカ坊もソフィも高等部なので学舎が違うのである。


「酷いです〜、ロリエ様〜。ここに来てウソを吐くなんて〜。私を脅してきたり突き飛ばしたりした方はロリエ様からヤッてしまいなさいって言われたって仰ってました〜」


 そこで王太子バカ坊の横に立ち瞳を潤々させていたソフィが口を挟んできた。


「ソフィ様、その方たちのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか? 私自身が確認をしたいのですが」


「あ〜、やっぱりロリエ様は酷いです〜。私のお父様が子爵なので高位貴族の方の顔とお名前なんて分からない事をご存知ですのにそんな事を仰るなんて〜。うう、カルス様〜」


 わざとらしくそう言うと王太子バカ坊に泣きつくソフィ。そんなソフィを優しく抱き寄せながら王太子バカ坊は令嬢を非難する。


「大丈夫だソフィ、私が君を卑劣なロリエから絶対に守るからな! ロリエ! 君はまだ事の重大さを分かって無いようだなっ!! この国の王族についての法を忘れたとでも言うのかっ!!」


 婚約破棄に非難までされている令嬢はソフィが爵位を理由に伯爵位以上の高位貴族令嬢の顔と名前が一致しないという話を聞いて、『このソフィ様を新たに教育なされる事になる王妃殿下がお気の毒ですわ……』と既に内心では婚約破棄を受け入れる気持ちになっていた事を王太子バカ坊は知らなかった。

 王太子バカ坊の最後の言葉に令嬢は毅然とした顔を向けて語り出した。


「殿下、それは王国法第二条の三【王族は軽々しく発言を翻す事は許されない。その発言を責任を持って実行すべし】の事を仰っておられるのでしょうか?」


「そ、そうだ、分かっているようだな。つまり私の言葉は実行されるべき責任があるという事だ! 君はソフィを傷つけた罪によって罰せられるというな!!」


 その場で聞いていた貴族子息女たちは心の中で盛大に突っ込んだ。


『いや、違うだろっ!! 罰せられるべきなのはお前やソフィ嬢で、ロリエ様の方じゃない!!』


 ここで婚約者から婚約破棄を申し渡され、ソフィを傷つけたと非難されている令嬢について説明をしておこう。


 彼女の名は冒頭にバカバカボンが言った通りロリエ・フルーレと言い、フルーレ公爵家の次女である。

 五歳の頃に同い年の第一王子であったカルス・ロワイヤルと王家、それも国王と王妃の二人から頼まれて婚約者となった。

 それから十二年の月日が流れて現在、その婚約者から婚約破棄を目出度い学園卒業パーティーで言い渡されているのである。


『私に責任があるというのは訳が分かりませんが、王族である殿下が婚約破棄をこれほどの数の人々の前で言った責任はあるでしょうから、いくら陛下や王妃殿下が言おうとも婚約破棄は間違いなく行われますわね…… やっと、この方と離れ離れになれるなんて、ソフィ様には感謝いたしますわ。後はそれほど重くない罰だとよろしいのですけど…… あ、でもお父様やお母様、それにお姉様、お兄様にはご迷惑をおかけする事をお詫びしないとダメですわね。今日は王都屋敷に全員が揃うとセバスが言ってましたから一度にお詫び出来ますわ』


 すっかり王太子バカ坊との婚約破棄を受入れて次の事を考えている令嬢はまだ何やら目の前で喚いている、もはや人としても見れない者二人に「婚約破棄の件は承りましたわ。罰については追って沙汰があるとの事ですので、陛下からの沙汰をお待ちしておきます。それでは私が居ては皆様が心からパーティーを楽しめないかと存じますのでここで失礼致しますわ。皆様、どうか卒業後も健やかにお過ごしくださいませ」スラスラとそう言って見事なカーテシーを決めてからその場を颯爽と後にしたのであった。


 そして、王太子バカ坊とソフィもその素早さに呆気に取られている隙に、他の皆も会場から素早く退出してしまい、後には二人のおバカとやりたくない警護をしている騎士八名だけが残っていた……



 王都屋敷に戻ったロリエはすぐさま家族が揃う居間に向かい、先ほどの王太子の言葉とそれを受入れて来た事を報告した。


「フッフッフッ、私の可愛いロリエは王家より望まれてイヤイヤながら婚約者となったというのに…… 私は今から王宮へと向かう!!」


「あなた、私もご一緒しますわ!!」


 両親がそう言ったかと思うと、姉であるエリスも


「ウフフフ、私の可愛い可愛い妹になんて事を言うのかしらね…… ウフフフ、私は今すぐ旦那様の所に戻りますわ…… さて、この国の軍事力で私の旦那様の猛攻を耐えられるかしら?」


 物騒な事を言い出したからロリエはいち早く止めた。


「お姉様、武力行使などおやめくださいませ。罪のない民まで巻き込むなんて私は望みませんわ」


 姉のエリスは隣国の軍事大国であるサーティー帝国の将軍に嫁いでいる。エリスの夫は将軍といっても身分は公爵で王弟殿下でもある。そしてエリスにベタ惚れしているので一言エリスが言えば即座に軍を動かして攻めてくるだろう。そしてまた、ロリエの事も義妹いもうととしてとても大切にしてくれているのだ。


「姉上、そうですよ。わが国の問題ですので義兄上あにうえが出てこられると話がややこしくなります。ですのでここは私に任せて下さい」


 ロリエの兄であるスーレイは若くしてこの国の宰相補佐を勤めている。今の宰相はもう一つの公爵家であるチャーム公爵家の当主、ハルガ・チャームが勤めている。残念ながらチャーム公爵家には女児しか産まれなかったのだ。

 スーレイは次期宰相として期待されていて、チャーム公爵家の令嬢ユーリアと婚約中である。


「お兄様、任せて下さいって私は何もしなくても良いと言っておりますわ!」


「何を言ってるんだい、ロリエ。私の可愛い妹が馬鹿にされたんだ、今から宰相義父上閣下と相談して王家に鉄槌を下さないとダメじゃないか」


 とても爽やかな笑みを浮かべているが目が全然笑ってないスーレイ。ロリエはそんな家族全員にキッパリと言った。


「お気持ちは嬉しいですけれどもおやめ下さいませ! 私はあの方と離れ離れになれて心から嬉しく思っております。ですので何も行動を起こさないで下さいませね。何か行動を起こされたならば私はこの家を出ていきますわっ!!」


 その一言で家族たちは行動を起こすことを泣く泣く諦めた。


 その頃、王家の国王の私室では、国王と王妃、第二王子の三人が頭を抱えていたとか……

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