第2話 【庶民】心に誓う

 

 僕の名前はシューイ。サラ王国の王都にほど近い、けれどもこれといった特徴のない村の雑貨屋の次男として産まれました。


 今の僕は五歳です。王都に近いのと、街道沿いにあるので旅人や冒険者それに商人さんが多く村を訪れます。

 なのでうちの雑貨屋もそれなりに稼げているとお父さんが言ってました。

 兄さん(十歳)はお父さんを手伝って雑貨屋で雑務をしています。

 

 家が商売をしているので僕もお母さんから読み書き計算の勉強を教えて貰ってますけど…… 正直に言うと退屈です。だって教わらなくても全て理解出来ますから。


 僕は家族にも内緒にしている秘密があります。それは僕が転生者だという事です。

 僕は前世では日本という国の某県で三十五歳まで生きてました。

 残念ながら彼女いない歴は年齢と同じでしたけど、それでもいつかはと結婚を夢見て生きていました。


 しかしながら会社帰りにビル解体現場の近くを通った時に突風に煽られて倒れてきたレッカー車の下敷きになり亡くなってしまったそうです。


 僕にはその時の記憶が無いのですが神様が教えてくれました。そう、あの神様です。


 何か大きな物が僕に向かってきたと思ってプチッていう音が聞こえたその時から意識が無かった僕が目覚めたら目の前でプラチナブロンドを扇状に広げて土下座している人が居ました。


 その人は僕が目覚めた事に気がつくと動揺しながらも謝罪の言葉を口にします。


『あの、その、こ、この度は、私の部下の不始末によりあなた様の尊いお命をうば、奪ってしまっま事、いえ、しまった事を深く、深ーくお詫び申し上げますっ!!』


 一瞬だけ顔を上げてそう言った後にまた頭を下げて土下座に戻ったその人の顔を見た途端に僕は理解しました。


「神様?」


『はっ、はいぃーっ!! 私が神様です!! 何でございましょうか!! 私で出来る事ならば何でも致しますので、何かご希望がございましたら仰って下さいませっ!!』


 本当に神様なんだと分かって僕は何で死んだのか聞いてみたんだ。


『実はでございますね…… その、私の部下である風神のガキめがですね、くだらない争いを雷神のガキめと致しましてですね…… 現界うつしよにてどちらが強いかなどという争いをしましてですね、あのレッカー車を一瞬で壊せるのはどちらだなどという…… その、何とも…… 申し訳ございませんっ!!』


 ああ、つまり風神様と雷神様が力比べをした現場に僕が居合わせたって事なんだと理解したんだけど……


『本来であれば神の力比べは現界で行ってはならないという決まりを大神様たいしんさまがお作りになられたのですが、それを破ったばかりかあなた様という犠牲者も出してしまった訳でございまして…… それで大神様にバレる前に私があなた様の魂を素早く私の神域にお呼びした訳でございます! どうか、どうか、寛大なお心でお許しいただければ!!』


 なるほど…… 上司にバレないように隠蔽工作中だという訳ですか。それなら、少しぐらい無茶を言っても今なら叶うかな?


「なるほど、僕は神様の部下である風神様と雷神様の所為で亡くなってしまった事は理解しました。それで、神様は僕にどんな【お詫び】をご用意して下さるんでしょうか?」

 

 僕が出来る精一杯の意地悪な口調を意識して神様にそう聞いて見たんだけど、僕が思ってた以上に効果があったみたい。


『ヒッ、ヒイィィィ! そ、それは勿論、昨今流行りの転生でございますっ!! 私の管理する世界限定となってしまいますので、日本は無理なのですがこちらの百三十八ある星の中からお好きな星をお選びいただけますっ!! ご希望に添うような星があればよろしいのですが!! 時間は幾らかかっても構いませんので、どうかじっくりと吟味して下さいませっ!!』


 なんて言われて百三十八もある星のパンフレットを差し出されたんだ。パンフレットっていっても一冊が十ページほどの薄いものだったけど、それなりに大切な情報が書かれていたから読んでて楽しかったよ。


 で、僕は八時間かけて全てを読み終えて、最終的に候補を二つに絞ったんだ。


 一つはまるで日本の江戸時代のような国が世界を支配してる星で、日本と同じ味の和食もあるっていう星。なんだけど…… そこの欠点は洋食や中華、それに西洋や中華スイーツが無いって事なんだ。

 僕は彼女いない歴=年齢だったから自炊もしてたんだけど、多国籍の料理やお菓子を楽しんで作ってたからね。和食一本だと無理だなって思ったんだ。だってその星では和食系統以外の料理を作ったら投獄されるなんていう法律があったからね。


 で、結果的に選んだのが今の星、【カユニオウ】っていう星なんだ。

 魔法もあって、米も味噌も醤油もあるって書いてあって。勿論だけど西洋スイーツは僕が八歳になった頃に開発が始まるって書いてあって、色んな料理を作っても投獄されないっていうのが決め手だったんだ。

 まあ米、味噌、醤油なんかの和の食品は僕が転生する予定だというサラ王国のお隣、サーティー帝国の特産品なんだけどね。仲が良いから輸出入をしてるって書いてあったんだ。


 僕がこの星に決めたって神様に言ったら


『それではお詫びとして、転生だけではアレですのでスキルとして【創造】と【不思議箱】をお付けしますね。これはあなた様の脳内で想像した物を、創造出来るスキルです。けれども創造する物が複雑だったり大きかったりする場合は魔力を多く必要とします。それと想像が貧弱ですと創造出来ない場合もございますので注意して下さい。魔力が多く必要になりそうですので、更に特典として産まれた時点で魔力が1,500,000あるようにします。それと、魔力の増やし方もお教えしておきますね……』


 どうやら僕が素直に転生すると知って落ち着いてくれたみたいだった。

 でも考えてみたら僕が想像する物を創造出来るって凄いチートだよね。

 まあ、それでも目立つ真似は絶対にしないけどね。


 そして転生して五歳となった僕は村の大人たちの会話からとある事実を知ったんだ。


「アレッ!? この国ってあの乙女ゲーの舞台じゃないかな? いや、絶対にそうだよねっ!!」


 僕はとても興奮したよ。だって前世でハマってた乙女ゲー【月夜に映える貴方の髪は? 目指せコンプリート!!】略称【ツキガミコンプ】の世界だったんだからっ!!


「と、いう事はこの世界にはもう産まれてるのか、まだなのか分からないけどロリエ様が居るんだっ!!」


 この時、僕は時代が分からなかったからゲーム世界と同じ舞台だけども、きっと僕の一番の推しであるロリエ様がいると確信してたんだよ。


 だから八歳になって外(村の中限定)に自由に出られる様になったから、先ずは村長さんの所に行ってフルーレ公爵家について聞いてみたんだ。


「ああ、フルーレ公爵様の所には二人目のお嬢様がお産まれになったそうだぞシューイ。確かお名前は……ロリエ様って言ってたな」


 ビンゴッ!? そうか、ロリエ様と僕は八歳差になるのか…… 良し! 決めた! 僕は庶民だけど推しのロリエ様をお救いして見せるよ!!


 ゲームの中ではロリエ様は悪役令嬢としての役割になっていて、王太子ルートだと辺境の修道院に送られてしまい、他の攻略対象者ルートでも年寄り貴族の後妻になってしまうんだけど、僕が必ずお救いしますからねっ!!


 八歳にしてそう決めた僕はどのルートだろうと必ずロリエ様をお救いする為に、王都で商人になる為にこれから努力していく事を心に誓ったんだ。


 王都に居たならば何かあった時に直ぐに手を打てるだろうからね。


 それから家族に隠れてスキルを使用して役に立ちそうな物を創造しては不思議箱に入れておいたよ。


 けれども神様…… 魔力を増やす方法は使い切って寝たら増えるって事だったけど、最初から1,500,000もあったから、使うのにとっても苦労したんだよ…… まあそれでも今では魔力も増えて90,000,000にまでなったけどね。


 さあ、先ずはいついかなる時でもロリエ様の危機を知れるように創造した透明ドローンを僕は飛ばしたよ。


 このドローンはロリエ様だけを自動で検出してくれる。そして物理的に危険な時はロリエ様の周りにシールドを張ってくれるんだよ。まあ、ロリエ様がお屋敷の外に出られた時だけなんだけどね。だから今の赤ちゃんのロリエ様には役に立たないって思ったんだけど、これが意外な事にロリエ様が一歳の時に役に立つとは僕も思ってなかったんだ。


 本当に僕は0歳のロリエ様に透明ドローンを張り付かせておいて良かったと思ったよ。


 ロリエ様が一歳の時に医者による健診があったんだけど、その医者が当時サラ王国と敵対してたナプミニ蛮族連合に買収されていたんだ。


 医者はロリエ様を屋敷から連れ出してナプミニ蛮族連合に渡そうとしてたんだけど、屋敷からロリエ様を連れ出した事により僕のドローンが起動してその後を追いかけて、このままでは危険だと感知していち早くシールドを張ったんだ。


 ロリエ様は一歳にして既に言葉を理解されてたから、僕はドローンを通してお声がけをして安心させていたんだよ。そして、ドローンからは常に天に向けて光を出させていたんだ。それもフルーレ公爵家の家族だけに見える光だよ。


 それによりロリエ様は公爵様ご本人によって救い出されたんだよ。


「わが子ロリエにはどうやら神の加護があるようだな……」


 いえ、神様じゃなく庶民です公爵様。すみません……


 とまあこんな危険から僕はロリエ様をお守りする事を心に誓ってサラ王国で王族にも覚えが目出度い商人になるべく日々、努力をしていく事にしたんだよ。


 

 

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