第2話 In the scent of memories

「ここってどんな場所なの?」


 どんな所なんだろう? 考えたこともなかった。

 まずは、自然が豊かで……えっと、自然が豊かで……あれ? それ以外に何があったかな?

 言葉にしようとすると、うまく出てこない。


「お花がたくさんある場所! 色んな所に色んな花が咲いてるの。白いのや黄色いのや……とにかくたくさん!」

 久遠は優しく微笑んだ。

「素敵な場所だね。じゃあ、花冠とか作ろうよ! シロツメクサもいっぱい生えてるし」

「はなかんむり? しろつめくさ?」

「ちょっと待っててね」


 久遠が何やら作業を始めた。しろつめくさをたくさん集めて……まるで、編んでるみたい。指先の細かな動きに見入ってしまう。


「完成! なかなかの出来だと思うけど、どうかな?」

「すごい! あのお花がたくさん集まって輪っかになってる!」


 はなってことは、これを頭に被せるのかな?


「ちょっとそれ貸して!」

「もちろん」

 久遠から受け取った花冠を、そのまま久遠の頭にちょこんと乗せる。

「わっ、俺に被せるのかよ」

「久遠かわいいよ!」

 照れているのか、少し顔を赤らめている。

「いいから! これはハナに被せるの!」


 見た目よりもずっと軽くて、本当に乗っているのか不安になる。手でそっと触れると、花びらの柔らかな感触が指先に伝わってくる。

 初めて味わう不思議な感覚。でも何だか懐かしいような……?


「どう?」

「かわ……似合ってるよ」

 そう言って視線を逸らす。すると、熟れたリンゴのように真っ赤な耳が現れた。

「ふふっ、久遠照れてる」

「照れてないから!」

 そう言いながらも、久遠は少し嬉しそうだった。


 二人は花畑の中を歩いた。

 久遠は色んな花の名前を教えてくれる。ヒメジョオン、ホトケノザ、オオイヌノフグリ。


 「すごい、初めて聞く名前ばっかり。よく知ってるね」

 「……昔、図鑑で見たことがあるんだ」


 昔か。久遠にも昔があるんだ。当たり前のことなのに、何だか不思議な感じがする。

 この世界で過ごしていると、時間の感覚が曖昧になってしまう。

 久遠には、ここに来る前の人生があったんだ。


「ねぇ、久遠はどこから来たの?」

「遠いところから」


 久遠は少しだけ寂しそうに微笑んだ。

 聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がして、私はそれ以上何も言えなかった。

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