021 : 天気の自動販売機

【今回のお題】

 濡れた紙袋/静かなボタン/午後のくしゃみ

 

【完成した作品の味わい】

 すこしふしぎな日常



   ★   ★   ★



「いらっしゃいませ。今日のあなたへのお薦めは、こちらのキリマンジャロコーヒーです」


 コーヒーのボタンがピコピコと点滅し、俺にうるさくアピールする。

 最近の自動販売機は顔認証機能によるレコメンド付き。

 俺の生活や好みの情報をネットから引き出し、お薦めの商品をアピールしてくる。


 確かにこれに従うと、俺好みの飲み物が買えるだろう。

 だが、これは意外性がなく、面白くない。新しい出会いが欲しい。


 だから、敢えてアピールのない、静かなボタンを押す。

 出てくる商品には微妙なのも多いが、意外性があって楽しい。

 それに、時には最高の商品に出くわすこともある。


 それにしても、最近の自動販売機の進化には目を見張るものがある。

 労働人口が減少したことや、技術の進歩による影響が大きいらしいが、様々な商品が取り扱われている。


 飲み物や食べ物は当たり前。

 服や靴まで買える。

 最近では、墓石の自動販売機なんてものまであるらしい。



  ◇  ◇  ◇



 ある冬の日の午後、街へ買い物に出かけたその帰り。

 ふと路傍を見ると、「天気」の自動販売機というものを見つけた。


「えっ?何だこれ」


 説明を読んでみる。


「この自動販売機は、購入者の周囲の天気を変更するサービスを販売しています」


 どうやら、”天候ドローン”と呼ばれる装置を飛ばして、天候変化を実現するとのこと。

 これは珍しい。まさに新しい出会いだ。


 好奇心に駆られた俺は、少なくない金額を投入した。

 自動販売機は俺の顔を認証すると、”晴れ”をうるさくお勧めしてきた。

 これに対して俺はいつもの癖でつい、静かなボタンの方、つまりは”雨”を押してしまった。


 自動販売機の上が開き、天候ドローンが飛び立って俺の頭上に停止する。

 そして突如、降り始める雨。


「ひゃあ、冷たい!」


 買い物の紙袋は、びしょびしょに濡れてしまった。

 身体が冷えて、くしゃみが止まらない。


 慌てて”晴れ”を買い直す。

 雨は止み、今度は人工太陽の光が暖かく照り始めた。


 やれやれ、まったくひどい目に遭った。

 アピールに逆らうのも、程々にしよう。



 濡れた服を何とかしようと、服の自動販売機を探す。

 すぐ近くにあった。良かった。

 今度は素直に、お薦めに従ってボタンを押す。


 ――競泳水着が出てきた。

 自動販売機に、お薦めの理由が表示される。


「この水着は、今ご着用の服よりも泳ぎやすいです」


 ……別に、泳いだから濡れているわけじゃないのだが。




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