013 : みがきの吉岡

【今回のお題】

 乾いた布/三角の箱/午後の影


【完成した作品の味わい】

 人情コメディ



   ★   ★   ★



 高層ビルが立ち並ぶこの街では、午後になると影が広がる。

 日差しはビルに遮られ、通りはひんやりとした空気に包まれる。

 夏にはありがたい日陰だが、どこか寂しげである。


 そんな午後の影の中に、ちょっと変わった店がある。

 三角の箱を立てたプリズム型の看板には、こう書いてある。


「よろず 磨きます。みがきの吉岡」


 店主の吉岡輝明は、あらゆるものを磨く。


 サラリーマンの靴を磨けば、皮が光を弾くほどテカテカに。

 骨董品の鏡は、まるで新品のようにピカピカに。

 占い師の水晶玉は、未来を映すようにキラキラに。

 古いテーブルは、きれいなあめ色がつやつやに。


 磨けるものは何でも磨く。



 最後の仕上げは、乾いた布で、キュッキュッ。

 これは、最後のつや出しの工程に欠かせない。



 輝明には小学生の甥っ子、翔太がいる。彼は泥団子づくりに夢中だ。

 翔太は放課後に”みがきの吉岡”に入り浸っている。

 輝明の手元を真剣に見入っては、自分の泥団子をピカピカに磨く。


 翔太にとって、輝明の手はまさに”魔法の手”だ。

 彼は輝明を「師匠」と呼んで敬愛している。


 輝明がいろいろなものを磨き、その傍で翔太が泥団子を磨く。

 それが”みがきの吉岡”の日常だった。



 ある日、この店に「自分を磨きたい」という男がやってきた。


「俺、自分を磨いて、同僚の女性に告白したいんです!」


 場違いにも思えたが、「よろず磨きます」と言っている建前上、輝明は相談に乗った。


 身だしなみ、教養、仕事への助言、対人スキル、体力づくり、――

 輝明は、あらゆる角度から彼を磨いた。


 やがて、彼は見違えるほどの”イイ男”になった。

 そして、意中の女性に告白しようと、颯爽と店を出ていった。



 数日後。

 輝明は作業室で古い椅子を磨き、横で翔太が泥団子を磨いていた。


 と、店のドアが開いた。入ってきたのは例の男。


「ダメでした……」


 どうやら、彼女には既に婚約者がいたのだそうだ。

 男は涙ぐんだ。


 輝明は、乾いた布で男の涙をぬぐった。

 すると、傍で見ていた翔太が言った。


「師匠、男を磨いたね!」




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