003 : おかん、池袋に立つ!

【今回のお題】

 自転車のベル/冷凍うどん/カツラ

 

【完成した作品の味わい】

 おかんと娘のコメディ



   ★   ★   ★



 今日は池袋ハロウィンコスプレフェスの日。

 サンシャイン通りから、グリーン大通りまで、街全体がコスプレの熱気に包まれる。

 私はお気に入りのキャラに変身して、この祭りに飛び込むためにやってきた。


 更衣スペースで着替え、メイクをして、カツラをかぶり、『魔法学園ミルフォージュ』のヒロイン、”マギアナ”になりきる。

 ブルーの髪に白い肌。儚げな表情作りも研究した。

 ダイエットも頑張った。完璧な仕上がりだ。


 今日は歩行者天国。サンシャイン60通りの交差点に立つ。

 ブルーの髪が風に舞い、魔法学園の白い制服が鮮やかに光る。

 カメラマンからの「マギアナちゃん、目線~!」の声に応えて、儚げな表情でポーズを決める。

 完璧だ。


 その時、チリンチリンというベルの音が聞こえてきた。


「ちょっとどいてぇな!」


 おばちゃんが自転車を漕いでいた。

 ヒョウ柄のトレーナーに、娘のお下がりと思しきジャージのズボン。

 足元はサンダル。髪は紫色のパーマで、蛍光ピンクのサンバイザーを付けている。


 おばちゃんはカメラマンの男性を避けきれず、自転車を止める。


「ちょっと、危ないやないの!街中でカメラなんか構えて」


「すみません。今日は池袋ハロウィンコスプレフェスでして、この辺り一帯は歩行者天国です。自転車は押して歩いていただかないと……」


「ほんまにぃ?誰が決めたん?知らんかったわぁ」


 ここは東京、池袋。

 なのにあまりにも板についた”大阪のおばちゃん”がいる。


「あれ?香里奈?香里奈やないの」


 えっ?私を知ってる?

 ……よくよく見たらこの人、大阪にいるはずの私の”おかん”だ!


「えっ、おかん、何やってんの?」


「やっぱり香里奈か。なんやけったいな格好して、青白い顔して。ちゃんとご飯食べてんのか?肉食わなあかんで」


 そういっておかんは、自転車のかごに乗せた”スーパー玉出”のエコバッグから、冷凍肉うどんを取り出した。


「いや、わたし今、コスプレの撮影してるんやけど……」


 私の母親は確かに大阪出身・大阪在住で、いわゆる”大阪のおかん”だ。

 でも、ここまでコテコテではなかったはずだ。


 自転車のハンドルには輪ゴムが巻かれている。

 ポシェットを下げ、そこからミャクミャクの携帯ストラップが揺れている。

 ……そういえばあのジャージのズボン、私が高校の頃に履いていたやつだ。


 ここ三年、実家に帰っていなかったのだが、何が彼女をこうさせたのだろう……。


「皆さん、香里奈のこと撮ってくれてるん?おおきに。飴ちゃん食べへん?」


 そういって、母はポシェットから”パイン飴”を取り出し、配り始めた。


「ちょっ!やめて。恥ずかしいやん」


「さよか?香里奈、たまには家に帰っておいで。おばあちゃんも寂しがっとるで」


「分かった!分かったから、今日は放っといて」


「それじゃ、待ってるで。ほなな~」


 そう言って、母は自転車を押して去っていった。

 一体、何だったんだろう……。


 すると、カメラマンの男性の一人が、あることに気づいた。


「あの人、コスプレタグを付けてました。キャラ名は『香里奈の大阪のおかん』だそうです」


 ……あの人、コスプレしに来ていたのか。

 っていうかあれ、コスプレだったのか……。




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