第16話「納品の日」

 ノーザン物流の西日本展開プロジェクト。

 六ヶ月の開発期間は、前回とは全く違う雰囲気だった。

「進捗、順調です」

 マヤが、週次報告で笑顔を見せた。

「バグも、早期に潰せてます」

 ケビンも、チームに馴染んでいた。

「素晴らしい。このペースなら、余裕で納期に間に合う」

 アダムが満足そうに頷いた。

 余裕があるからこそ、品質を追求できた。ユーザーインターフェースの改善、パフォーマンスの最適化、詳細なドキュメント作成——。

「これ、完璧だな」

 リドラが、デモを見て感嘆した。

「前回の反省を、全部活かした」

 アダムが、誇らしげに答えた。

 一方、リドラの営業も順調だった。

「新規契約、今月で三社増えました」

 エリカが報告した。

「ノーザンの実績が、大きな武器になってますね」

「ああ。『大手での導入実績』は、信頼の証だ」

 リドラは、着実に顧客基盤を広げていた。

 ショーンの財務も、安定していた。

「今期の売上予測、七千万ニールです」

「すごいね。去年の倍以上だ」

「利益率も、改善してる。健全な成長だよ」

 三人は、会社の成長を実感していた。

 そして、納品の日が来た。

 朝六時。三人は、ノーザン物流の西日本統括センターに到着した。

「緊張するな」

 リドラが呟いた。

「前回は、ギリギリだったからな。今回は余裕があるけど」

 アダムも、少し緊張していた。

「大丈夫。完璧に準備したんだから」

 ショーンが、二人を励ました。

 午前九時。システムの切り替え作業が始まった。

 アダム、マヤ、ケビンが、慎重に作業を進める。リドラとショーンは、ノーザンのスタッフと連携を取る。

「旧システム、停止しました」

「新システム、起動します」

 マヤが、エンターキーを押した。

 画面に、ログイン画面が表示される。

 アダムが、管理者アカウントでログインする。

 ダッシュボードが、立ち上がる。

 そして——。

「全機能、正常に動作しています」

 ケビンが、確認を終えた。

「データ移行も、完了」

 マヤが続けた。

「現場の端末も、全部接続されてます」

 アダムが、最終確認を終えた。

「……成功です」

 その言葉に、全員が歓声を上げた。

「やった!」

「完璧だ!」

 ノーザンのスタッフたちも、拍手をした。

「素晴らしい。今回は、本当にスムーズでしたね」

 西日本統括部長の佐藤が、感謝の言葉を述べた。

「ありがとうございます。万全の準備をしてきました」

 リドラが、深々と頭を下げた。

 正午。現場のドライバーたちが、新システムを使い始めた。

「おお、これ、使いやすいな」

「前のシステムより、断然いい」

 好意的な声が、次々と上がった。

「ドライバーさんたちの反応、いいですね」

 マヤが、嬉しそうに言った。

「ああ。ユーザーの声を、ちゃんと反映したからな」

 アダムも満足そうだった。

 夕方。全ての動作確認が終わった。

「トラブルは、ゼロ。完璧な納品でした」

 佐藤が、最終評価を伝えた。

「ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。次のフェーズも、ぜひ御社にお願いしたい」

「喜んで」

 三人は、ノーザンを後にした。

 車の中、しばらく無言だった。

 そして——。

「やったな」

 リドラが、静かに言った。

「ああ。完璧な納品だった」

 アダムも頷いた。

「前回とは、全然違ったね」

 ショーンが微笑んだ。

「あの地獄があったから、今回がある」

「ああ。失敗から、学んだ」

「掟を、更新した」

 三人は、深い達成感を共有した。

 オフィスに戻ると、スタッフたちが待っていた。

「お疲れ様でした!」

「成功、おめでとうございます!」

 マヤ、エリカ、ケビン、そして新しく加わったエンジニアたち——十人のチームが、拍手で迎えた。

「みんな、ありがとう」

 リドラが、全員に感謝を伝えた。

「これは、チーム全員の勝利だ」

 その夜、全員で祝杯を上げた。

 居酒屋の個室で、賑やかな笑い声が響いた。

「乾杯!」

「ノーザンの成功に!」

「スリー・ブリッジの未来に!」

 グラスが、何度も触れ合った。

「なあ、リドラさん」

 マヤが、少し酔った様子で尋ねた。

「三人の掟って、本当にすごいですね」

「どうして?」

「だって、あれがあるから、チームがまとまってる。問題が起きても、すぐに解決できる」

「それは、みんなが掟を守ってくれるからだ」

「私たちも、守りたいです。ずっと」

 マヤの言葉に、他のスタッフも頷いた。

「ありがとう。じゃあ、改めて宣言しよう」

 リドラが立ち上がった。

「スリー・ブリッジの掟。苦しいときは、必ず共有する。苦しくなる前に、相談する。そして——」

 彼は、アダムとショーンを見た。

「嬉しいときも、必ず共有する」

「おお!」

 全員が、グラスを掲げた。

「スリー・ブリッジに!」

「掟に!」

「俺たちの未来に!」

 夜は、更けていった。

 翌朝。三人は、朝日を見るために屋上に出た。

「きれいだな」

 リドラが呟いた。

「ああ。前回の納品の後も、朝日を見たな」

 アダムが思い出した。

「あのときは、缶コーヒーだったね」

 ショーンが笑った。

「今日は、ちゃんとしたコーヒーを買ってきた」

 リドラが、三つのカップを取り出した。

「気が利くな」

「たまにはな」

 三人は、朝日を見ながらコーヒーを飲んだ。

「なあ、二人とも」

 リドラが口を開いた。

「俺たち、ここまで来たな」

「ああ。起業から、二年半」

「長かったような、短かったような」

「これから、もっと長い道のりが待ってる」

「でも、怖くないな」

 アダムが言った。

「三人でいれば、何でも乗り越えられる」

「そう思えるようになったこと、それが一番の成長かもね」

 ショーンが微笑んだ。

 朝日が、三人を照らした。

 静かな達成感。

 深い信頼。

 そして、未来への希望。

 それが、この瞬間に詰まっていた。

「さて、今日も仕事だ」

「ああ。次の目標に向かって」

「うん。三人で」

 彼らは、オフィスに戻った。

 新しい一日が、始まる。

 新しい挑戦が、待っている。

 だが、恐れることはない。

 三人の絆が、あるから。

(第16話終わり)

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