第七話:筋肉聖女の休日!常夏の島でリゾート&あやしいパーティー! 〜初めてのピンチは魔酒の味〜

南国行きの雲の上、あたしはリュガルドの背にまたがって飛んでいた。

「うんうん! 現地の動物に乗って写真を撮るのって観光の定番よね〜♪」←姫と一緒に自撮りしながら


「風が気持ちいいですね、ゆかりん!」

あたしの後ろに乗っているアリシア姫は、美しい髪をかきあげている。

「そうねぇ、これぞ異世界アクティビティって感じよねぇ」


「あ、姐御に喜んで貰えて俺うれしいよ……ハァハァ……」(姐御の筋肉が俺の背中に……)


「ちょっとアンタ、変なこと考えてないでしょうね?」←息が荒いのを怪しんだゆかりん


「なっ、なんにもないです姐御!!!」←焦ってる



着いたのは透き通る海と白い砂浜の国――南国みなみこく

観光客で賑わう街を前に、あたしはスマホを取り出した。

「さて、まずは……水着がなくっちゃね」

通販アプリを起動し、水着を三着購入。

「わたくしの分もあるのは嬉しいのですが、この見た目は……」

どうやら王女という立場上、海水浴なんてしたことがなかったみたい。

「いいえ! 王女たるもの、やるときはやりますわ!」


すぐに届いた段ボールには、あたし用のスポーツビキニ、アリシア様用の(悩み抜いて選んだ)フリル付きワンピース、リュガルド用のトランクス。

三人で海へ飛び込むと、南国の太陽と潮風が最高だった。


「ゆかりん様の筋肉、まるで神像のようです!」

「言い方!」

「姫様もお綺麗です!」

「あなたは泳ぐより褒めるのが仕事なの?」

リュガルドのしっぽが波を立て、あたしたちは笑い転げた。


「ふふっ、楽しい水着回ね」(あたしはいつもマイクロビキニ回だけど)


そんな楽しい日の午後――王宮の使者が砂浜に現れた。

「筋肉聖女ゆかりん様。各国の代表が集う勲章授与式に、ぜひご出席を」


王宮主催、各国大使も列席、あたしたちのこれまでの功績を称える式典らしい。

「やりましたわね、ゆかりん! これで正式に英雄よ! 筋肉英雄マッスルヒロインね!」

「形式ばったのは苦手だけど、断る理由もないかー」(社会に出てから表彰されたことなかったな)



数日後。南国王宮の迎賓館はきらびやかに飾られ、各国の使節たちがずらりと並んでいた。

あたしたちは礼服姿――黄金のマイクロビキニでの出席を求められたけど断った。


国王が立ち上がる。

「異世界より来たりし筋肉聖女ゆかりんよ。その勇気と筋肉を称え――」

と、厳かな声が響く。


パーティが始まれば、アリシア姫もリュガルドも大はしゃぎ。

あたしはこういう場なんで自重してたんだけど……初めて飲む不思議なお酒が止まらない。


「……ふわぁ、ちょっと飲みすぎたかも……」

揺れるシャンデリアを見上げながら、意識が遠のいていく。


魔力入りの酒マギスピリッツの味は如何かな……」


誰かの声もよく聞こえない……。



目を覚ますと、酔いはすっかり醒め冷たい石造りの部屋に居た。

腕と脚が鎖で縛られ、壁に貼り付けられている。

無駄に胸が目立つように縛られてるけど、目立つほどないわよ残念だったわね。

「……くっ、殺せ!」(こういうときのセリフ、これで合ってる?)


耳に響く笑い声。

「授与式は全て幻想……やはり酒の席で油断したな、筋肉聖女ゆかりんよ。

 吾は四天王の最後の一人。智謀のシグレというものだ」


その細身の魔族は、いやらしい笑みを浮かべている。

やはり酒の席でって、コイツ……あたしのことを知ってる!


「今までの貴様の動き、戦闘データ、嗜好、スリーサイズ、すべて解析させてもらった」

足元には魔法陣が輝く。

「これは一体……!」(スリーサイズに何の関係があるのよ!)

魔力無効化結界マジックキャンセラー――身体強化を封じれば、筋肉聖女とてただの人というわけよ」


シグレが杖を鳴らすと、空間に無数の数字が浮かび上がった。

「吾の能力を味わうがいい――智謀牢獄インテリジェンス・トラップ

 フフフ……与えられた計算問題を解けねば、魂が消えるぞ。

 さぁ足掻いて見せよ! 筋肉バカには解けないだろうがな!」


眼の前に問題が次々と浮かび上がってくる!

数式、図形、確率――でもねッ!


「ふふっ、こんなもの朝飯前よ」

あたしは胸を張る。(縛られてるけど)

「伊達に経理部で地獄の月末処理をしてなかったのよッ!」

OL時代に叩き込まれた計算スキルが炸裂。

子供の頃ソロバン教室で会得した脳内ソロバンが、次々と正答を弾き出す!


「そんなはずは……! 脳筋なのに計算が得意な人類など居るはずが……!?」

「そういうのを決めつけっていうのよ! さぁ!これで最終問題も解けたわッ!」

その瞬間、拘束が弾け飛ぶ!


そこへ天井を突き破り、リュガルドに乗ったアリシア姫が降りてきた。

「ゆかりん! 助けに来たわよ!無事!?」

「あ”ね”ご〜〜〜!」←泣きじゃくってる


「よくも、わたくしの婚約者パートナーを! よーし、アレいくわよ! リュガルド!」

「はい! 姫様!」

アリシア姫が風魔法を放ち、リュガルドが火球を吐く。

「合体技! 火炎旋風!」

結界が砕け散り、魔力が体に戻る。


「二人ともナイス連携! 筋肉、再覚醒!

 マッシブ・マキシマム・マッスル!!!」←今考えたスキル発動のセリフ


ボッ!


心なしかいつもより立派な筋肉。


「アンタの小細工なんて、筋肉とソロバンの前には無力よッ!」


――ゴォォォッ!


あたしの両腕から巻き起こる風圧でシグレは城ごと消し飛んだ。


【腕ハリケーンのスキルレベルが上がりました】



数日後、今度こそ本物の授与式。

東国、西国の代表者と南国国王、そして央国代表アリシア姫が並び、

それぞれの勲章が、あたしの胸に付けられる。


最後に勲章を付けたアリシア姫が言う。

「これで、四天王は全滅。残るは北国の魔王のみですね」

「ええ、でもその前に……」


リゾートホテルのテラス。

波の音を聞きながら、あたしは魔力入りの酒を片手に笑った。

「南国のビーチ、もう一回くらい満喫してからでいいわよね?」

「はいっ!」と姫も笑う。

「姐御の水着姿がまた見られてうれしい!」とリュガルド。


「まったく、あたしにも乙女の恥じらいはあるんだからね!」


笑い声が波に溶け、暖かな夏の空に星が瞬いた。

しばしの休息――だって、あたし達が次に向かうのは、魔王城のある北国きたこくなのだから。

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