第六話:踊れ、筋肉! 西国ダンスバトル決戦!
「ふわ〜〜〜わぁぁぁ」←ゆかりん特大のあくび
「スキル身体強化【手】はつどぉ」
パチーン!
――ビターン!!!
【称号:ドラゴンスレイヤーを獲得しました】
指が鳴ると同時に、船全体がぐわんと揺れた。
空を裂き、波を巻き上げながら、船を襲っていたドラゴンが甲板に墜落。
「ふう……早朝の運動は気分がいいわね! OL時代にはなかった感覚だわ!」
――しばし前のこと。
船員が半泣きで「ど、ドラゴンが出ました!」と叫びながらドアを叩く音で目を覚ました。
パジャマのまま見に行った結果がこれ。
甲板に転がるドラゴンの巨体を見て思う。
「これ……邪魔ね、海に落とした方がいいかしら?」
その直後、ドラゴンの体が光に包まれた。
眩い閃光が収まると、そこに立っていたのは銀髪のイケメン青年。
「……姐御。あなたの拳、マジで最高だ……!」
あーこれー、人化したドラゴンに好かれたやつー。
とにかく、あたしは言ってやりたいことがあった。
「どいつもこいつも姐御ってねぇ!たぶんあたしアンタよりだいぶ年下よ!?」
◆
そんな騒動の後、船は無事に西国へと到着した。
そこは音楽と舞踏を愛する優雅な国。放って置いても観光客がくる観光立国。
街の広場では昼からバイオリンが鳴り、貴族も庶民も踊りながら挨拶を交わす。
アリシア姫が感心したように呟く。
「すてきな国ね。平和な国だと聞いているけれど……どこか張り詰めた空気……」
そんな時、王宮からの使いがやって来た。
「筋肉聖女様! 陛下がお待ちです!」
◆
案内された謁見の間には、絢爛な装飾と緊張した面持ちの国王がいた。
「実は、我が国は今、『魔王軍舞踏団』に脅かされておる。
奴らは『王都ダンスフェス』において国の代表が負ければ、街を滅ぼすと宣言したのだ……!」
「そ、それは大変ですね」(なにがどうなって、そうなるのよ!?)
国王は手を震わせながら続ける。
「今年の相手は四天王の一人、
筋肉聖女の噂は我が国にも轟いている。どうか力をお貸しいただきたい」
アリシア姫は迷いなく答えた。「もちろんお受けしますわ!」←心得がある人の余裕
ゆかりんは肩をすくめた。「そういうことならまぁ……学校で少しやったし」←渋々
でも、出場は3対3。あたしとアリシア姫、二人では足りない。
そこで立ち上がったのが、
「姐御、俺も出たい! 筋肉に踊らされたいんだ!」
「ふふっ、面白い子ね。いいわ、三人目はアンタで決まりよ!」
――こうして、筋肉女、姫様、ドラゴンの三人チームは結成された。
とてもじゃないけど、ダンスチームには見えないわね。
◆
会場となる王都ホールは、魔力の照明が踊る夢幻のような空間。
ステージ中央に現れたのは、金の燕尾服に身を包んだ長身の男――四天王・ダンスデューク。
白いグローブを鳴らし、滑るように床を踏むたび、観客の心が奪われていく。
「見せてやろう、人間ども。これが
そのステップは神業だった。
重力を無視した跳躍、魔力で光る足跡、そして観客の拍手をビートに変える異能。
デュークチーム残りの二人も、頑張って後ろで踊っている。
筋肉聖女チームも負けてはいない。
姫のドレスが風を切り華麗なリズムを刻む!
リュガルドの足元からは炎の軌跡が伸び、荒々しいビートが胸を打つ!
だが、デュークのリズムは崩れない。彼は笑った。
「貴様らのダンスは乱れている。筋肉など、リズムの敵だ!」
あたしは一歩前に出る。
「まだ筋トレ初心者だけどわかる、それは違うわ!
筋肉こそが究極のリズム。命の……輝きよッ!」←同時に身体強化【全身】発動
音楽が変わる。重低音が響き、あたしの筋肉が自然とビートを刻む。
スクワット、アームカール、プランク。
筋トレの一つひとつを踊りに変え、その動きが空気を震わせた。
会場の観客が息をのむ。まるで筋肉そのものが音楽になったかのようだ。
デュークが一瞬バランスを崩した――そこを逃さず、姫とリュガルドが息を合わせる。
三人のリズムが完全に一致し、舞台を揺らした。
「フィニッシュ!マッスル・フォーメーション!!!」
光の爆発。デュークが膝をつき、床に崩れ落ちた。
「くっ……吾輩のリズムが……負けた……!」
勝負は決した――それなのに。
「認めん! 認めんぞ! 筋肉なぞに負ける訳がないのだ!」
怒り狂うデュークが魔力を解放する。
やれやれ、負けてダダをこねるお子様じゃない。
「アンタのリズムも良かったわよ……
でも……最後の駄々っ子は、クソムーブ過ぎるわッ!」
パチーン!
――ガクッ!ボコッ!
【SPポイントを獲得しました】
デュークはダンスホールにめり込んだ。
これではもう――踊れない。
「筋トレも、平和も――続けるのが大事なのよ♪」
こうして西国に平和が戻り、アリシア姫はその功績を外交の切り札に変えた。
「油に続いて、今度はワインと食品。筋肉外交の恩恵は凄まじいわ!」
「このワインとチーズを帰っても食べられるのは、確かにいいわね」
笑顔の姫を見ながら、あたしはグラスを傾けた。
リュガルドは横で赤くなっていた。
「姐御……踊ってるとき、マジで神々しかった……!」
「まったくアンタ、さっきからあたしのこと見すぎよ、このスケベドラゴン!」
「そうよ! ゆかりんは、わたくしと結婚するのですから、変な目で見ないでくださる!?」
夕陽が沈む街に、笑い声がこだまする。
順調な旅を信じる一行の知らない所で、不穏な動きがあるとも知らずに……。
――魔王城にて――
「……デュークも倒されたか」
「フフフ……ご安心下さい。やつらなど三人合わせても、吾の足元にも及ばぬ雑兵。
必ずや、ゆかりんの首を陛下の御前に晒して見せましょう」
「……あ、あぁ……期待している」(今首って言った? 生首なんて持ってこられても困る……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます