第六話:踊れ、筋肉! 西国ダンスバトル決戦!

「ふわ〜〜〜わぁぁぁ」←ゆかりん特大のあくび


「スキル身体強化【手】はつどぉ」


パチーン!


――ビターン!!!


【称号:ドラゴンスレイヤーを獲得しました】


指が鳴ると同時に、船全体がぐわんと揺れた。

空を裂き、波を巻き上げながら、船を襲っていたドラゴンが甲板に墜落。


「ふう……早朝の運動は気分がいいわね! OL時代にはなかった感覚だわ!」


――しばし前のこと。

船員が半泣きで「ど、ドラゴンが出ました!」と叫びながらドアを叩く音で目を覚ました。

パジャマのまま見に行った結果がこれ。

甲板に転がるドラゴンの巨体を見て思う。

「これ……邪魔ね、海に落とした方がいいかしら?」


その直後、ドラゴンの体が光に包まれた。

眩い閃光が収まると、そこに立っていたのは銀髪のイケメン青年。

「……姐御。あなたの拳、マジで最高だ……!」

あーこれー、人化したドラゴンに好かれたやつー。

とにかく、あたしは言ってやりたいことがあった。

「どいつもこいつも姐御ってねぇ!たぶんあたしアンタよりだいぶ年下よ!?」



そんな騒動の後、船は無事に西国へと到着した。

そこは音楽と舞踏を愛する優雅な国。放って置いても観光客がくる観光立国。

街の広場では昼からバイオリンが鳴り、貴族も庶民も踊りながら挨拶を交わす。

アリシア姫が感心したように呟く。

「すてきな国ね。平和な国だと聞いているけれど……どこか張り詰めた空気……」


そんな時、王宮からの使いがやって来た。

「筋肉聖女様! 陛下がお待ちです!」



案内された謁見の間には、絢爛な装飾と緊張した面持ちの国王がいた。

「実は、我が国は今、『魔王軍舞踏団』に脅かされておる。

奴らは『王都ダンスフェス』において国の代表が負ければ、街を滅ぼすと宣言したのだ……!」


「そ、それは大変ですね」(なにがどうなって、そうなるのよ!?)


国王は手を震わせながら続ける。

「今年の相手は四天王の一人、ダンスデューク舞踏公爵だ。

 筋肉聖女の噂は我が国にも轟いている。どうか力をお貸しいただきたい」


アリシア姫は迷いなく答えた。「もちろんお受けしますわ!」←心得がある人の余裕

ゆかりんは肩をすくめた。「そういうことならまぁ……学校で少しやったし」←渋々


でも、出場は3対3。あたしとアリシア姫、二人では足りない。

そこで立ち上がったのが、アリシア姫押しかけ女房に続いて現れた、ドラゴン青年リュガルド押しかけペットだった。

「姐御、俺も出たい! 筋肉に踊らされたいんだ!」

「ふふっ、面白い子ね。いいわ、三人目はアンタで決まりよ!」


――こうして、筋肉女、姫様、ドラゴンの三人チームは結成された。

とてもじゃないけど、ダンスチームには見えないわね。



会場となる王都ホールは、魔力の照明が踊る夢幻のような空間。

ステージ中央に現れたのは、金の燕尾服に身を包んだ長身の男――四天王・ダンスデューク。

白いグローブを鳴らし、滑るように床を踏むたび、観客の心が奪われていく。


「見せてやろう、人間ども。これが絶対律動パーフェクトリズムだ。」


そのステップは神業だった。

重力を無視した跳躍、魔力で光る足跡、そして観客の拍手をビートに変える異能。

デュークチーム残りの二人も、頑張って後ろで踊っている。


筋肉聖女チームも負けてはいない。

姫のドレスが風を切り華麗なリズムを刻む!

リュガルドの足元からは炎の軌跡が伸び、荒々しいビートが胸を打つ!

だが、デュークのリズムは崩れない。彼は笑った。


「貴様らのダンスは乱れている。筋肉など、リズムの敵だ!」


あたしは一歩前に出る。

「まだ筋トレ初心者だけどわかる、それは違うわ!

 筋肉こそが究極のリズム。命の……輝きよッ!」←同時に身体強化【全身】発動


音楽が変わる。重低音が響き、あたしの筋肉が自然とビートを刻む。

スクワット、アームカール、プランク。

筋トレの一つひとつを踊りに変え、その動きが空気を震わせた。

会場の観客が息をのむ。まるで筋肉そのものが音楽になったかのようだ。


デュークが一瞬バランスを崩した――そこを逃さず、姫とリュガルドが息を合わせる。

三人のリズムが完全に一致し、舞台を揺らした。

「フィニッシュ!マッスル・フォーメーション!!!」


光の爆発。デュークが膝をつき、床に崩れ落ちた。

「くっ……吾輩のリズムが……負けた……!」


勝負は決した――それなのに。


「認めん! 認めんぞ! 筋肉なぞに負ける訳がないのだ!」

怒り狂うデュークが魔力を解放する。

やれやれ、負けてダダをこねるお子様じゃない。


「アンタのリズムも良かったわよ……

 でも……最後の駄々っ子は、クソムーブ過ぎるわッ!」


パチーン!


――ガクッ!ボコッ!


【SPポイントを獲得しました】


デュークはダンスホールにめり込んだ。

これではもう――踊れない。


「筋トレも、平和も――続けるのが大事なのよ♪」


こうして西国に平和が戻り、アリシア姫はその功績を外交の切り札に変えた。

「油に続いて、今度はワインと食品。筋肉外交の恩恵は凄まじいわ!」

「このワインとチーズを帰っても食べられるのは、確かにいいわね」

笑顔の姫を見ながら、あたしはグラスを傾けた。

リュガルドは横で赤くなっていた。


「姐御……踊ってるとき、マジで神々しかった……!」

「まったくアンタ、さっきからあたしのこと見すぎよ、このスケベドラゴン!」

「そうよ! ゆかりんは、わたくしと結婚するのですから、変な目で見ないでくださる!?」


夕陽が沈む街に、笑い声がこだまする。

順調な旅を信じる一行の知らない所で、不穏な動きがあるとも知らずに……。


――魔王城にて――


「……デュークも倒されたか」


「フフフ……ご安心下さい。やつらなど三人合わせても、吾の足元にも及ばぬ雑兵。

 必ずや、ゆかりんの首を陛下の御前に晒して見せましょう」


「……あ、あぁ……期待している」(今首って言った? 生首なんて持ってこられても困る……)

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