#4 推察

すべての撤去作業がおわった「新都心エネルギー開発センター」。

今、目の前にある施設は、瓦礫もなくただ何もなかったかのような土地になっていた。

しいてあるとすれば、あの事件で奇跡的に倒壊しなかったセンターのモニュメントだろう。

冬野はそんなこの場所の目の前でただ2本の足で立っていた。


開発センターに関しては、環境会議がせまっていることもあり別の研究所が急遽設置され、そなえていると聞く。

何か情報が進んでいるとするならば、ここに入る他ないだろう。


「――――。」


何を発することもなく、ただ冬野は立ちながら今後自分がどう進むべきか考えていた。


後方で車の走る音が聞こえる。

その音とともに、トンっと人間の踏み込み音が聞こえた。


「あの――――。」


その足音がとまり、声が聞こえた。

誰もその声に返事をしない。

つまり自分にかけられたということだろうか。


「はい。――――あ。」

「どうも――――。あ。」


お互いに何かにきづき、声が語尾に漏れる。


「秋本、俊さんですよね。」

「――――そうです。あなたは、、、。」


彼は、ぎゅっと何か伝えたいことを飲み込んだ気がした。

まるで、俺を一度でも見たことがあるかのようなそんな反応だった。

内心ふと違和感を感じたのだった。

ここも経験か、若干の刑事モードに入る。


「俺、警察のものなんですけどこの事件に巻き込まれて、このような状態です。こないだ、同じ境遇の人がいるとお聞きしまして勝手ながら花を――――。」

「あぁ!あの花!ありがとうございます。恥ずかしながら自分にはそんな花を添えてくれるような身内はいなかったので、うれしかったです。」


冬野は包帯が巻かれた右手を指し、目の前の青年――秋本俊に応える。

そんな彼に秋本は開かれた花のようなぱぁっと明るい、ただ内心には羞恥心のあるほおを染めた顔でお礼をした。

秋本の純粋さが混じるそんな顔に刑事モードとして彼にあえてふっかけるような言い方をした自分に恥ずかしくなる。


「すごい爆発でしたね――――。」

「そうですね。」


お互い一言発するとその後続くことがなく、風が吹いた。

若干、きまづさを感じるのだった。

そんな空気を遮るかのように、秋本は発する。


「――――冬野さんって、この爆発のあと不思議なことって起こりませんでした?」


さぁっと再び風が吹く。

今までいた世界が一瞬遠のいた気がした。





『こちら新都心エネルギー開発センター、センター内に2人、この事件に巻き込まれたであろう対象者発見――。』











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る