#5 変遷

秋本は退院した。

複数箇所怪我があったものの、自分でも驚くくらいだが

治癒能力がたかいらしく、全完治をした。


「さて、どうしたものか。」


家はあの事件の日のままだ。

あのとき、どの状態で放置したのか――。

秋本は背筋がゾクっとした。

突発的な不安を感じたがひとまず考えないことを選んだ。


「――――あそこに行ってみるか。」


自分が今の状況になったきっかけの場所、

『新都心エネルギー開発センター』。

入院しているときから薄々感じていた。

あそこにいかないと自分の気がすまないと。

あの日から自分の体も変わってしまったのだから。


今の自分には得体も知れない「力」がある。

秋本はその「力」を使って、自分の置かれている状況をどうしても把握したかったのだ。


「――――行こう。」


秋本は足を踏み出した。





「すごい爆発でしたね――――。」


『新都心エネルギー開発センター』へ行くと、

1人の自分と年齢がそう変わらないであろうスーツ姿の男性が、

直立してあの日爆発したその場所を眺めていた。

そしては彼は俺に気づき話しかけてきた。


振り向いた彼に見覚えはあった。

あの花の男性だった。


お礼を言いたかったが、自分から言うのは語弊が生じる。

そうおもっていた矢先、彼の方から歩み寄ってもらえた。


「そうですね。」


秋本はさっき言われた言葉に返事をする。

どうやら彼もまだ完治していない右腕を見る限り「巻き込まれた」男性だと、

直感で思った。


そして、秋本は思った。

「巻き込まれた」ということはと。

自分はあの瞬間から自分の体が変わった。

もしかしたら――彼も。と思ったのだった。

そして勇気をだして口から漏らした。


「――――冬野さんって、この爆発のあと不思議なことって起こりませんでした?」


彼は目を丸く開く。

あ、やってしまった。秋本は瞬時に感じた。


「不思議なこと?」

「あ、いやいやなければいいんですよ、全然。」

「君にはあったのか?」

「――――はい。」

「たとえば――?」


墓穴を掘ってしまった。

こんな風にかわりましたなんて言っても、頭を強打しておかしくなったのではと思われる。

秋本は言葉に悩んだ。


「――感覚。」

「感覚?」

「はい、目に見える世界があの日から変わった気がします。」


どうだ!と秋本は思った。

なんとなく、これは筋がとおるのではと思ったのだ。


「あぁ、なるほどね――。」


冬野は顎に手を添える。

何か思うことがあったのだろうか。


「それはわかる。世界は変わったかもしれない。」


彼の言葉には厚みがあった。

軽く発した自分のみぞおちに拳をいれたいと秋本は感じた。


「そうですよね――。」

「――あぁ。だから俺はこの場所の実態を明らかにしたい。」

「実態?」

「そう。明らかにしないと俺の心が静まらない。」


再び彼はあのセンターを眺める。

その顔には何か覚悟をきめた、そんな感情がにじんでいた。


「君、俺に協力してくれないか?」

「え?」


思ってもみなかったそんな言葉が返ってくる。

秋本は驚きで間髪入れずに音が出た。


「あの日を知っているの者同士協力しないか?なぜこの場所は爆発しなければならなかったのか。」

「――――知りたい。」


そう、知りたかったからここに来た。

なぜこの「力」が使えるようになったのか。


「冬野さん――――俺、もう1個変わったものがあるんですよ。あの日から。」


秋本は、腕をまくる。

そして手をゆっくり地面に向け、トンっと置いた。

そんな彼に冬野は興味を示す。


秋本は手に集中した。

がらりと視界が反転した。






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