#5 変遷
秋本は退院した。
複数箇所怪我があったものの、自分でも驚くくらいだが
治癒能力がたかいらしく、全完治をした。
「さて、どうしたものか。」
家はあの事件の日のままだ。
あのとき、どの状態で放置したのか――。
秋本は背筋がゾクっとした。
突発的な不安を感じたがひとまず考えないことを選んだ。
「――――あそこに行ってみるか。」
自分が今の状況になったきっかけの場所、
『新都心エネルギー開発センター』。
入院しているときから薄々感じていた。
あそこにいかないと自分の気がすまないと。
あの日から自分の体も変わってしまったのだから。
今の自分には得体も知れない「力」がある。
秋本はその「力」を使って、自分の置かれている状況をどうしても把握したかったのだ。
「――――行こう。」
秋本は足を踏み出した。
◆
「すごい爆発でしたね――――。」
『新都心エネルギー開発センター』へ行くと、
1人の自分と年齢がそう変わらないであろうスーツ姿の男性が、
直立してあの日爆発したその場所を眺めていた。
そしては彼は俺に気づき話しかけてきた。
振り向いた彼に見覚えはあった。
あの花の男性だった。
お礼を言いたかったが、自分から言うのは語弊が生じる。
そうおもっていた矢先、彼の方から歩み寄ってもらえた。
「そうですね。」
秋本はさっき言われた言葉に返事をする。
どうやら彼もまだ完治していない右腕を見る限り「巻き込まれた」男性だと、
直感で思った。
そして、秋本は思った。
「巻き込まれた」ということはと。
自分はあの瞬間から自分の体が変わった。
もしかしたら――彼も。と思ったのだった。
そして勇気をだして口から漏らした。
「――――冬野さんって、この爆発のあと不思議なことって起こりませんでした?」
彼は目を丸く開く。
あ、やってしまった。秋本は瞬時に感じた。
「不思議なこと?」
「あ、いやいやなければいいんですよ、全然。」
「君にはあったのか?」
「――――はい。」
「たとえば――?」
墓穴を掘ってしまった。
こんな風にかわりましたなんて言っても、頭を強打しておかしくなったのではと思われる。
秋本は言葉に悩んだ。
「――感覚。」
「感覚?」
「はい、目に見える世界があの日から変わった気がします。」
どうだ!と秋本は思った。
なんとなく、これは筋がとおるのではと思ったのだ。
「あぁ、なるほどね――。」
冬野は顎に手を添える。
何か思うことがあったのだろうか。
「それはわかる。世界は変わったかもしれない。」
彼の言葉には厚みがあった。
軽く発した自分のみぞおちに拳をいれたいと秋本は感じた。
「そうですよね――。」
「――あぁ。だから俺はこの場所の実態を明らかにしたい。」
「実態?」
「そう。明らかにしないと俺の心が静まらない。」
再び彼はあのセンターを眺める。
その顔には何か覚悟をきめた、そんな感情がにじんでいた。
「君、俺に協力してくれないか?」
「え?」
思ってもみなかったそんな言葉が返ってくる。
秋本は驚きで間髪入れずに音が出た。
「あの日を知っているの者同士協力しないか?なぜこの場所は爆発しなければならなかったのか。」
「――――知りたい。」
そう、知りたかったからここに来た。
なぜこの「力」が使えるようになったのか。
「冬野さん――――俺、もう1個変わったものがあるんですよ。あの日から。」
秋本は、腕をまくる。
そして手をゆっくり地面に向け、トンっと置いた。
そんな彼に冬野は興味を示す。
秋本は手に集中した。
がらりと視界が反転した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます